『若き見知らぬ者たち』内山拓也監督×磯村勇斗 “主人公の交代劇”への挑戦【Director’s Interview Vol.441】
自主映画『佐々木、イン、マイマイン』(20)で鮮烈な印象を残した内山拓也監督が、ついに商業長編デビューを果たした。主演に磯村勇斗を迎えた本作『若き見知らぬ者たち』では、将来に希望を持てない理不尽な環境に身を置きながらも、懸命に生きようとする若者を描き出す。容赦の無い現実を描きながらも、映画的手法を駆使して希望を感じさせる物語を生み出した。内山監督と磯村勇斗はいかにして本作を作り上げたのか。2人に話を伺った。
『若き見知らぬ者たち』あらすじ
風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父(豊原功補)の借金を返済し、難病を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いている。彩人の弟・壮平(福山翔大)も同居し、同じく、借金返済と介護を担いながら、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。息の詰まるような生活に蝕まれながらも、彩人は恋人の日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいと考えている。しかし、彩人の親友の大和(染谷将太)の結婚を祝う、つつましくも幸せな宴会の夜、彼らのささやかな日常は、思いもよらない暴力によって奪われてしまい――。
普段の自分を共有する
Q:磯村さんとは初めてのお仕事ですが、オファーの理由を教えてください。 内山:この主人公の状況は“掴み”づらいので、想像を巡らせながら演じる必要がある。普段の磯村さんの活躍を見ていて、彼だったら託せるのではないかと。いつもとは違う彼の表情や演技を引き出せればと、半分直感で、半分自信を持ってお願いしました。 Q:磯村さんは脚本を読んだ時の印象はいかがでしたか。 磯村:彩人はそもそも物語の中盤で姿を消すんです。それを思いついたとしても、トライするような映画は今までなかった。そこを形にしていたことへの興味がありました。あと、途中でいなくなるって「いいな」と思ったんです(笑)。別に最初から最後まで主人公がいる必要はない。そこの新しさは感じましたね。 また、登場人物たちが抱えている心の苦しさみたいなものが、今の自分が感じているものと共感できる部分も多く、「これは絶対に参加したい」と。僕も直感的なものがありました。 Q:本作ではリハーサルを行わなかったとのことですが、彩人というキャラクターについて二人で話し合われたのでしょうか。 内山:ほとんど無かったと思います。脚本を渡した上で会っているので、内容の理解は前提としてある。それよりも、映画の“役”というある種フィクショナルなものを捉えようとする作業を積み上げていくと、どうしても壁が生まれたり、届かない部分が出てきてしまう。磯村勇斗という人物が、普段どういうものを見て、感じて、息をしているのか、僕も同じようにさらけ出すから、普段の自分たちを共有しようと。きっとそういうことをお互いに求めているのではないか。そこは話さずとも理解し合えていた実感はありました。どうでもいい些細なことも含めて、普段の自分たちをひたすら共有していましたね。 磯村:僕はこのやり方がすごく好きでした。作品や監督によっては、プライベートで会うこともなく、そのままクランクインすることもありますが、内山監督の場合は、お互い何を内面に持っているのか、どんなことを考えているのか、それを共有する食事会があったり、一緒にサウナに行ったりもしました。そういった何気ない時間を共にすることで、それがそのまま現場に生きていくのだろうなと。僕としてもすごく有り難かったですし、その時間があったからこそ、初日に不安や緊張もなく、すぐに作品に入ることが出来たのだと思います。 Q:リハーサルを行わない場合、監督が作ろうとしているものと現場で起こるものにズレはあったときは、どのように対応されているのでしょうか。 内山:積み上げるものと壊すものはどちらも大事だと思っています。想定したものが変わっていくことは良しとしているので、現場に入ったときには、あえて忘れようとすることもあります。キャストの皆さんから「監督は前にこんなことを言ってました」と言われて、「そんなこと言ったっけ?」みたいなこともよくあります。それは自分の中で積み上げたものを、意識的に剥ぎ落とそうとしているんです。 ただ、編集するときは固執してしまうこともあります。「あのシーンのあのカットを使いたい」と、全てをコントロールしながら作業していくと、どうしても執着してしまうところがある。そういうものは全部忘れようとしていますね。だから想定と違ったことは、そもそも無かったし、無いようにしています。それ以上のものになったから、想像していたようにはならなかった。そういうことかなと思っています。
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