ウクライナ危機と連鎖のリスク「今世紀最初の食糧危機」
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ロシアの ウクライナ侵攻 は原油、天然ガスから 小麦 、トウモロコシまで幅広い一次産品の価格高騰として世界経済を襲っている。ウクライナ危機が今後、数カ月以上長期化した場合、今年後半から世界とりわけ途上国は価格高騰だけでなく、食料不足に見舞われる恐れがある。ロシア、ウクライナが小麦、 トウモロコシ の大輸出国であることはよく知られているが、軍事衝突の舞台や後方地域がその基盤となる世界的な穀倉地帯であり、農地、出荷インフラがダメージを受ければ、輸出量が大きく落ち込むリスクがあるからだ。加えて、農業生産を支える化学肥料の3大要素のうち、カリはロシア、ベラルーシが世界輸出の40%を占める。カリ供給が止まれば、世界は化学肥料の不足と 施肥量減少 による農業生産の落ち込みに直撃されるだろう。ウクライナ侵攻は今世紀に入って最初の食糧危機に向かいつつある。 ウクライナは国土の70%が農耕地帯であり、その大半が「チェルノーゼム」と呼ばれる養分が豊富で生産力の高い黒土に覆われている。2020年のウクライナの小麦生産量は世界8位の2491万トンで、輸出量は5位の1806万トン、トウモロコシ生産量は世界5位の3029万トンで、輸出量は世界4位の2795万トン。小麦は生産量の73%、トウモロコシは92%を輸出する世界トップクラスの穀物輸出大国である。加えて、ウクライナの「国花」で、黒海沿岸地域では地平線まで畑が広がるひまわりから搾油する植物油の代表格「ひまわり油」の輸出量では世界の44%を占める。 侵略したロシアはウクライナ以上の農業国家であり、2020年の小麦生産は中国、インドに次ぐ世界3位の8589万トン。同輸出量は世界トップの3727万トンで、世界の18.4%を占めている。注目すべきは、プーチン政権が小麦を戦略的な輸出商品として育ててきたという点だ。旧ソ連時代の穀物生産は灌漑設備の不足、機械化の遅れ、農民の増産意欲の欠如で停滞し、70年代の大凶作などを経て、穀物輸入が常態化していた。農業大学に学び、北カフカスのスタヴロポリ地方で穀物増産の実績をあげたことで中央政界に入り、農業担当書記となり、共産党書記長にまで登ったミハイル・ゴルバチョフですら成功しなかった農業増産は、ロシアに変わっても鬼門だった。
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後藤康浩