芸術の秋に観たい、映画館に行きたくなる話題作3選!
逆風が似合うモードの風雲児、背中合わせの美醜と向き合う。 『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
2011年の舌禍騒動で華々しいキャリアを無にしたジョン・ガリアーノに、ドキュメンタリー畑の旗手が肉薄。1990~ゼロ年代の絶頂期までファッション界の寵児が疾駆した軌跡をレアな映像と証言で辿る前半と、「社会的自殺」への萌芽を繁忙時の舞台裏に探り、事件の核心へガリアーノ自身と踏み入る後半からなる。フランス映画初期の天才監督アベル・ガンスの『ナポレオン』(1927年)に彼は心酔。その役者じみた挙動が来たるべき皇帝の世界進撃への熱情と時に同化し、別世界の蠱惑を湛えたショーの特異な感覚とも響き合う。破滅を控えた天才の危うさが綱渡り的創作欲に見え隠れし、差別発言は醜態でしかないが、ジョンの贖罪の行脚がいい方角へ向くよう、念ずる心地になる。 【動画】予告編。芸術の秋に観たい、映画館に行きたくなる映画3選!
『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
監督/ケヴィン・マクドナルド 2023年、イギリス映画 116分 配給/キノフィルムズ ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開中 https://jg-movie.com/
母を疎んで離反した息子の、胸に沁みる帰郷と旅の再開。 『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
東北の港町、耳の聞こえない両親の間に生まれた健聴の子・大は、善意を装った周囲の特別視や、晴れやかに努める母の情愛を、思春期を境に厭わしく感じ、成人して家を出る。設定の似た先駆作『コーダ あいのうた』(2021年)に敬意を払いつつ、『そこのみにて光輝く』(14年)の俊英は、家庭と世間を繋ぐ"通訳"から解放された大の、漂泊と帰還の物語に力点を移動。吉沢亮演じる線の細い反抗児の大は、でんでん演じる漁師崩れの渡世人という風情の祖父と妙に相性がいい。名脇役の少し下品な豪傑ぶりが、目標も名実もなく東京の底辺をさすらう道楽息子を暗に救い、文筆の道(原作は五十嵐大の自伝的エッセイ)へ導く。母の天てん稟ぴんに大が気付く駅の閃光的回想も名シーンだ。
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
監督/呉 美保 2024年、日本映画 105分 配給/ギャガ シネスイッチ銀座ほか全国にて公開中 https://gaga.ne.jp/FutatsunoSekai/