オーディション番組『timelesz project』レビュー。たゆまぬ努力で人は少しずつアイドルになってゆく
数々のプレッシャーを乗り越えてきたメンバーの「言葉の重み」
「アイドルになる」ことの先にある「アイドルでいつづける」道は、「なる」ことよりももっと困難で厳しい道のりなのかもしれない。番組のなかで交わされる、候補生と現メンバーとの言葉のやり取りを見ていると、そう思う。メンバーの言葉の端々から、果てしない「思考の広さと深さ」、そして「覚悟の強さ」を感じるのだ。 エピソード2のなかで、菊池風磨が「言葉の選び方」について言及する場面があった。自分の熱意を伝えるため、ある言葉をつかって思いを述べた候補生に対して菊池は疑問を投げかけ、良かれと思って選んだ言葉が、意図せず他人を傷つけることがあるかもしれないと想像してみることをうながしたのだ。 自分たちのファンの人、ファンではないけれどテレビでなんとなく見ている人、スタッフやスポンサーや関係者……さまざまな立場や思いを持つ人々に対して、可能な限りの想像力を働かせ、思いを馳せること。そうしてそれらを踏まえたうえで、最終的には、自分がどうなりたいのか、どうやって生きていきたいのか、自分の道を自分の責任で選び取り、覚悟を決めて進むこと。 これは、市井に生きて働く私たちにとっても大切な、「人間力」とも呼べるものかもしれない。10代の頃からプロとして活動し、自分ひとりの決断がまわりの多くの人生をも左右するプレッシャーを幾度となく乗り越えてきたであろうメンバーたちの言葉には、ずっしりとした重みを感じてしまう。
たゆまぬ努力で人は少しずつアイドルになってゆく。変わっていく候補生とメンバーの化学反応に期待
第三次選考に進む36名には、ダンサーやシンガー、元アイドル、別のオーディション番組に参加経験のある人など、さまざまなバックグラウンドを持つ候補生が残った。 歌やダンスのスキルや、ぱっと目を惹く華やかさ、それにメンバーが重視していたtimeleszへの思いの強さなどいろいろな審査ポイントがあろうけれど、「言葉」という面でいえば、「自分の言葉で話そうとしている」「言葉に嘘がない」という印象を与える候補生が多く残ったように、個人的には感じた。 オーディション番組という特性上、候補生に対してもSNSではさまざまな声が飛び交い、なかにはネット上に残る候補生の過去の行動や発言への批判もある。こうした厳しい視線は、いままでメンバーたちがアイドルとして時に向けられてきたものであり、候補生たちもその入口に立ったにすぎない、ともいえるのかもしれないが、アイドルでいるということにおいていまの時代の環境があまりに過酷であることについては考えさせられるものがある。 もちろん、応援のメッセージやポジティブな感想もたくさんある。特に、ウェブサイト上で候補生たちのオフィシャル写真が公開された際には、「垢抜けた」「かっこいい」「番組の印象と全然違う」と驚きの声が多数上がった。 それは、プロのヘアメイクやカメラマンの手腕に加えて、応募総数18,922名のなかからオーディションという大勝負を乗り越えて選ばれた、という候補生の自負による側面もあるのかもしれない。表舞台できらきらと輝くアイドルを見ていると、この人は生まれたときからアイドルになることが決まっていたんじゃないか、とつい思ってしまうことがあるけれど、きっとそれは間違いなのだ。人生を生きるなかで培った人間力や意思の力、そして、自分でも気づいていない自分の魅力を周囲に見出され、たゆまぬ努力でそれに磨きをかけつづけることによって、人は少しずつアイドルになってゆくのだと思う。 松島聡はオーディション開催を発表したインスタライブのなかで、いままでは「先輩」として振る舞う機会がなかったことに触れ、新メンバーを迎えることが自身の成長にもつながるのではないかと期待を覗かせていた。配信済みのエピソード1では、緊張で足を震わせた候補生にオーディション終了後、「反動で疲れが来ちゃうと思うけどリラックスして」と優しく声をかけた。それは、パニック障害による休養と復帰という苦しい過去を乗り越えた経験に裏打ちされた、「後輩」への懐深いサポート力の片鱗だった。 これから始まる第三次審査では、候補生たちがグループを組んで作品づくりに挑むという。今後の選考プロセスを経て、候補生たちはますます変わっていくだろうし、かれらと触れ合う現メンバーたちもまた、刺激を受けて変わっていくのだろう。思いと思いがぶつかり、最高の化学反応が生まれることに期待したい。
テキスト by 原里実 / 編集 by 生田綾