【オートレース】自身の英知を後輩に授ける荒尾聡「今は安定した精神でやることを心がけている」~川口・SGスーパースター王座決定戦
この大会だけは独特だった。何がって、勝ち上がりが特異だ。 予選ロードを経て、準決勝、そして優勝戦へと道が開ける他の開催とは異なり、選ばれし16人が4度のトライアルでサバイバルを繰り広げ、生き残ったベスト8がV戦へと突き進む。つまり、トライアルラウンドで一度も勝利しなくても、2着がなくても優勝戦へ勝ち上がれるケースがある。あの鈴木圭一郎は16年大会でトライアル戦はすべて3着だったが、4つ3着を並べた後、ファイナルで突き抜けた。 そこで、荒尾聡である。2001年に27期生としてデビューした後、そのたった3年後にSSデビューを果たすと、な~んと去年まで一度も欠場することなく20年連続で年末決戦の舞台へとやって来た。 ただ参加しただけじゃない。17年大会を制したのを始め、20度のエントリーでなんと16度もベスト8に居残ってみせた。それを知った中村杏亮は「バケモンですか!?荒尾さんは!」とポカーン状態だった。今年は21年連続の果てしなきエントリーとなった。 この大会の極意を荒尾に聞いた。「確かにこの大会は特殊だし、すごく難しい。何度やっても慣れませんから(苦笑)。だって、勝ち上がりだけじゃなくて、毎日、毎日がSGの優勝戦を走るようなものですからね!」 そして、荒尾にとってうれしいことがある。それは、今年のベスト16に自身を含めてチーム飯塚メンバーの名が5人も探せることだ。「いやあ、いいですね!キョウスケ(中村、初出場)、マサヤ(長田、2度目)たちはここで戦うことがすごく勉強になります。次からが絶対に違ってくると思います。自分もね、最初に出場した頃はただ勝ちたいという気持ちだけで戦っていました。でも、だからこそ失敗も多くしました。その経験があって、今があるんです。昔は瞬発力で戦っていましたが、今は安定した精神でやることを心がけています。その一番の見本が中村雅人なんでしょうね!」 荒尾自身がVを狙う立場なのに、開催中もまだ慣れぬSSの異空間に戸惑う中村杏亮、長田をさりげなく気遣い、助言を求めにくれば出し惜しみすることなく、自身の英知を後進へ授ける。だから、若手は荒尾を慕い、尊敬の対象にする。 長田が言っていた。「荒尾さんはプライベートで食事に連れていってくれる時も、全部出してくれるんです。仕事を教わり、ご飯もご馳走してくれる。もうお世話になりっぱなしです」と。それを聞いた荒尾は「それは当然のことなんで」と表情すら変えなかった。「だって、僕が若い時は久門さんが全部出してくれた。一度も出させてもらえたことがなかったんです。そのお返しを今、若手にしているだけなんです。お金がなかったとしても、そこは男の見栄を張りたいところですよね。だから、これからもずっと自分は強い存在でいないとですね!」 これぞ、飯塚の伝承スタイル。先輩が荒尾を育て、今、荒尾が若手の成長を促進している。オートレースはエンジン状態の問題だけで勝負が決するわけじゃない。最後の最後は人間力が深くものを言う。なぜ、荒尾がSSサバイバルに生き残り続けるのか。その答えを2024年残り2日で再確認しようぜ。(淡路 哲雄)
報知新聞社