無念のスコアレスドローで開幕…なぜ川崎Fの新システム「4-3-3」は機能しなかったのか?
次は交代選手の顔ぶれだ。VARでゴールが取り消された後にサガンの時間帯になった原因を、鬼木監督はリスクを冒す勇気がちょっと足りなかったと分析している。だからこそ、最初の選手交代に踏み切った後半20分に、場内をちょっと驚かせる選手を2人、ピッチへと送り出している。 左ウイングのドリブラー長谷川竜也と、右ウイングで2018シーズンのMVPを獲得した家長に代わって同時に投入されたのはMF三笘薫とFW旗手怜央。前者は筑波大から後者は順天堂大から、それぞれ加入したルーキーであり、東京五輪代表候補にも名前を連ねる、ともに22歳のホープだ。 三笘は2年生の秋からJFA・Jリーグ特別指定選手としてフロンターレに登録され、3年生の7月には加入が内定。昨シーズンのYBCルヴァンカップで公式戦デビューを果たした。三笘と同時期に加入が内定した旗手も、5分間だけながら昨シーズンの最終節でJ1のピッチに初めて立っている。 J1開幕戦に先駆けて16日に行われた、清水エスパルスとのYBCルヴァンカップ予選リーグでも2人は途中投入され、旗手は長谷川の、三笘はFW小林悠のゴールをアシスト。5-1の快勝に貢献したが、サガン戦では引き分けでもよしとする、相手の身体を張った守備を崩せなかった。 「相手がスライディングしてきて、ボールに来ると思ったらコースに入ってきたので……」 旗手はこう振り返った後半45分に、千載一遇のビッグチャンスを迎えている。縦パスに抜け出した三笘が左サイドでボールを収め、マイナス方向へ折り返したパスへ、右サイドからペナルティーエリア内へ侵入してきた旗手が完璧なタイミングで左足を振り抜こうとした刹那だった。
乾坤一擲のスライディングでコースをふさぎにきた、MF高橋秀人の鬼気迫る姿が視界に入ったからか。ゴールの枠を外してしまったシュートを、旗手は「自分の判断ミスでした」と悔やむ。 「あそこでシュートを打たずにターンして、中へもっていくのもひとつの手だったと思う。攻撃に圧力をかけることと、あとはゴールを取ってこいと監督からは言われていたので、いま現在の自分に力がないことを痛感しました。ただ、それに対しても落ち込んだりはしていません」 練習を積み重ねていくしかないと旗手が力を込めれば、左タッチライン際から鋭いドリブル突破を、縦や中央へ何度も見せてはスタンドを沸かせた三笘も「まだまだですね」と自らにダメ出しした。 「相手ゴールに向かって仕掛けていくプレーはできていたけど、ラストパスやシュートにまでもっていけなかった。それらにこだわらなければ、仕掛けていく意味もなくなってしまうので」 スコアレスドローとともに突きつけられた課題と正面から向き合い、成長していくための糧にしようとルーキーコンビは必死に前を向く。そして、結果こそ伴わなかったものの、推進力とパワーをもちあわせる2人が同時に投入された後に、再び流れが変わったと鬼木監督の目には映っている。 「怖がらずに向かっていくプレーが出てきたこともあり、後半の最後で少し盛り返せた。そうした点を今後につなげていければと思う」 ホーム等々力陸上競技場での開幕戦において、8年連続でドローを喫してしまった不名誉な軌跡にも下を向いている時間はない。新システムを熟成させ、三笘や旗手を触媒としてチーム内に化学反応を起こす先に復活の二文字を見すえながら、フロンターレはチャレンジを加速させていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)