「鉄塔爆買い」のベンチャーが5年で市場を去る真因 米国投資会社がTOB、抱えていた構造的ジレンマ
しかし、「5Gならでは」のユースケースが限られたことや、官製値下げに伴うキャリアの投資抑制が要因となり、専用周波数が期待よりも普及しなかった。5Gの誤算も、JTOWERにとって大きな逆風になったといえる。 ■今後は経済安保上の懸念も? 上場廃止後、タワー事業はどうなるのか。5月にJTOWERが出した「中長期展望」では、国内に約8万本の鉄塔があると推計したうえで、2万本程度の統廃合を前提に、将来は全体の半分の3万本を運用する目標を掲げた。
かねてインフラシェア事業に対するキャリア側の期待は高く、NTTグループ、KDDI、楽天モバイルは次々とJTOWERと資本業務提携を締結し、TOB前にはNTTが16%超、NTTドコモが2%超を出資するなどしていた。 非公開化によってこれらの資本関係は解消されるが、NTTグループは、TOBが公表された8月14日に「今後もインフラシェア推進に向けた業務提携を継続する」と発表し、JTOWERも「(キャリアと)既存の事業関係を含めて変化はないものと想定している」と説明した。
データ通信量が急増し、5Gのさらなる利活用が求められるキャリアにとってみれば、今後もコスト削減に向けたインフラシェアが重要な意味を持ち続けることは間違いない。JTOWERの目論見通り、機動的な資金調達でタワーの取得がさらに加速するか注目される。 もっとも、今回JTOWERが外資系投資会社の傘下に入ることにより、同社による国内の通信インフラの獲得が今後さらに急速に進めば、経済安全保障上の懸念が高まる可能性もある。JTOWERの趨勢は、未来の国内通信業界の姿を占う試金石にもなっている。
茶山 瞭 :東洋経済 記者