「鉄塔爆買い」のベンチャーが5年で市場を去る真因 米国投資会社がTOB、抱えていた構造的ジレンマ
悲願とも言えるタワー事業の本格展開に向けて、JTOWERは2021年から鉄塔の「爆買い」を開始した。 同年7月にNTT西日本からの71基の鉄塔取得を発表したのを皮切りに、2022年3月にNTT東日本から136本、NTTドコモから6002本の取得を決定し、2023年9月には同じくドコモから1552本の追加取得を決めた。移管は順調に進み、2024年3月時点で5759本、2025年3月末までに7297本が完了する見通しだ。
取得価格は合計で最大1250億円規模。売り上げが100億円程度のベンチャー企業にとっては異例ともいえる規模の資金調達を、JTOWERは銀行からの借り入れなどでまかなうとした。 ■タワー事業が抱えるジレンマ 会社の命運を託したタワー事業は、鉄塔を特定の通信事業者から買い取り、相手に利用を続けてもらうことで使用料を得つつ、他事業者にもシェアして収益性向上を図るというビジネスモデルだ。 キャリアにとっては、1社で担う設備の維持費用などを減らし、事業効率化を図れる利点がある。JTOWERからすると、鉄塔取得に多額の費用を要する反面、いったん鉄塔を取得すると維持管理コストなどは一定であるため、利用者が増えれば増えるほど収益が増える。
ただ、こうした仕組みは業績への貢献面では構造的課題もあった。 どういうことか。鉄塔を取得すると、提供元のキャリアが設備を継続的に利用する使用料が入るため、1社分の売り上げが計上される。一方で他社による共用が軌道に乗るまでには時間がかかり、その間は鉄塔取得に伴う固定資産税や支払利息が重しとなり、利益貢献は限定的だ。 ポイントとなる指標が、1本の鉄塔を利用するキャリア数を示す「テナンシーレシオ」。設備共用が進めば進むほど、この指標が上昇し、売り上げが伸びて収益性も高まることになる。
ただ、2024年3月末時点のテナンシーレシオは「1.0」で、事実上、売り手の事業者1社のみが使う状態だ。2025年3月末時点の見通しも「1.07」にとどまり、実際にシェアリングが進むには一定期間が必要になる。 また、タワー事業を加速させるために鉄塔を新たに取得すればするほど、そのぶん固定資産税や支払利息の増加が続く。取得したばかりの鉄塔は利用事業者が少ないため、テナンシーレシオの下押し要因にもなり、収益化がさらに遠のくというジレンマを抱えている。