「大正9年創業」のフィンテック企業?日本上陸の「ムームー証券」の正体とは 生成AI使い海外情報を翻訳、米国株投資の壁を取り除く
―大正9年創業とありますが、日本進出の経緯は。 「老舗証券会社の『ひびき証券』を買収する形で日本市場に参入しました。業務開始までに金融当局と1年以上やりとりしながら、システムや個人情報保護の体制を整備してサービス開始に至っています」 ―親会社は中国IT大手テンセント出身者が香港で立ち上げ、テンセントが大株主となっています。情報管理上の懸念はないですか。 「正直に言って、そこが一番肝心な点だと認識しています。日本の利用者の全取引データは東京のサーバーで管理しているほか、データベースを完全に独立させた上で暗号化し、海外にいる開発者のアクセス権限も非常に厳しく管理しています。他国ではそこまでのセキュリティー管理をやっていませんが、日本のユーザーに安心感をもってもらうため、厳格な体制を敷いています」 ―日本にもオンライン証券は数多くありますが、勝算は。 「テクノロジーから入った企業ならではの開発力があり、証券会社とは企業文化が全く異なります。多くのエンジニアを抱え、システムを自社開発している点が大きな違いです。利用者からのフィードバックを生かし、改良や開発につなげるスピード感は次元が違うと言えます」 「日本進出後は想定以上のダウンロード数があり、来年中ごろにはアプリのユーザー数が100万人を超えると予想しています。投資に慣れた中上級者が多い印象で、1日当たりのアクティブユーザー(DAU)率が非常に高い。プロとアマの投資家とでは、入手できる情報格差が投資パフォーマンスに大きく影響しますが、その格差を解消していきたい」
―日本政府は金融立国を目指し、海外投資家に日本への投資を呼びかけています。 「海外のユーザーから日本株の取引をしたいという問い合わせが増えています。2024年のどこかの段階で、海外投資家向けに日本株の取り扱いを始められるはずです。」 × × × 伊沢フランシスコ氏 慶応大法学部卒。ソシエテ・ジェネラル証券やリーマン・ブラザーズ証券などのトレーディング部門で株式やデリバティブ取引に従事。SBI証券などを経て富途の日本法人、ムームー証券社長。 ▽取材後記 動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」やアパレルEC「SHEIN(シーイン)」といった中国発のテック企業が世界を席巻している。ムームー証券の親会社である富途もそうした新興企業の一つだ。中国湖南省出身の李華氏が2012年に香港で設立した。 李氏は創業期のテンセントに「18番目の従業員」として2000年に入社し、インスタントメッセンジャー「QQ」など数々の事業立ち上げに携わった。中国メディアによると、李氏はユーザーとして触れた香港証券会社のサービスが技術的に遅れていることに驚き、起業機会を見いだしたという。