[ハリウッド・メディア通信] ミュージカル・クライムドラマ 仏出品、スペイン語映画『Emilia Perez (原題)』の女優たち
サンローラン発信映画とは
映画とファッションの関係性の歴史は長い。しかし、ブランドのメゾンそのものが長編映画製作に乗り込んでくるというのは、今まで聞いたことがない。就任から8年以上が経ったファッションブランド「サンローラン(SAINT LAURENT))」のクリエイティブ・ディレクター、アンソニー・ヴァカレロは自ら映画通を公言。彼のシンプルかつ洗練されたファッションセンスは自らが見てきた映画から触発されてきたと語っているそうで、創業者イヴ・サンローランの服が、『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーヴの衣装として映画の中で主人公の体の一部として生きていたことが印象的だったそうだ。 ヴァカレロ率いるサンローランの映画進出は自然な成り行き。彼がクリエイティブ・ディレクターに就任してから、ブランドCM制作のために出会ったのがフィルムメーカー、ギャスパー・ノエとウォン・カーウァイやジム・ジャームッシュ。ブランドの美学を映画の中に見出したヴァカレロ。映画製作を本格的に開始するために、巨匠ジャン=リュック・ゴダールとやりとりを開始したものの、ゴダールが22年に他界。しかし、ヴァカレロの映画への情熱は絶えることなく、2023年にサンローラン・プロダクションを設立。敬愛するスペイン監督ペドロ・アルモドバルの短編西部劇『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』(2023)をプロデュース。1910年が舞台のこの映画は、イーサン・ホークとペドロ・パスカルが主演。男性社会で生きるゲイ保安官たちのドラマを描き、アルモドバル監督らしいカラフルな色彩に合わせたヴァカレロの衣装デザインも見どころである。 今年のカンヌでは、『エミリア・ペレス』のほかに、パオロ・ソレンティーノ監督作、ゲイリー・オールドマン出演の映画『Parthenope (原題)』とデヴィッド・クローネンバーグのアートハウス・ホラー『The Shrouds(原題)』と、彼がプロデュースした3作品ともコンペ作品に選ばれ、メゾンの目指すシネマワールドにはハリウッドも注目。自らのラジカルなビジョンを開花させる上で影響を受けた監督たちの作品をまず最初にプロデュースしたかったと語っていたヴァカレロ。今後、新進気鋭の若い監督たちともコラボしたいと、夢を実現する自信に満ちたファッション界の鬼才のセンスは『エミリア・ペレス』の女優たちが歩く赤絨毯のドレスに反映されることは間違いない。
文 / 宮国訪香子
【関連記事】
- 第58回:クリティックス・チョイス・アワード主要部分含む11部門ノミネート! 舞台ミュージカルを超えた 映画『ウィキッド ふたりの魔女』
- 第57回:Z世代の男らしさ 映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』ポール・メスカルの魅力
- 第56回:玩具から映画へ LEGOとミュージシャンがコラボした画期的なドキュメンタリー アニメーション映画『Piece by Piece (原題)』
- 第55回:仏女性監督のボディ・ホラー映画 『The Substance (原題)』のホラーを超えた革命
- 第54回:『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』待望の続編に米映画ファン困惑!対 視聴者大絶賛のHBOオリジナルシリーズ「THE PENGUIN-ザ・ペンギン-」の話題