[ハリウッド・メディア通信] ミュージカル・クライムドラマ 仏出品、スペイン語映画『Emilia Perez (原題)』の女優たち
人生より大きなプロジェクトー仏作曲作詞家、カミール 談
映画『レミーのおいしいレストラン』(2007) 、『リトルプリンス 星の王子さまと私』 (2015) 、 レオス・カラックスのロックオペラ『アネット』(2020)やアニメーション作品『リンダはチキンがたべたい!』(2023) の音楽も手掛ける作曲チーム、カミールとクレモン・デュコル。内面の思いと感情を映し出す楽曲は、監督が「15ページの脚本が1曲にまとまった」と喜んだほどで、映画では16楽曲がまさにオペラのように、歌からはじまり、歌で閉めくくるような構成になっている。カミーユ&デュコルは、2020年の1月にオーディアール監督から依頼されて以来、約2年間かけて作詞作曲。4人の登場人物の配役が決まってからは、より鮮明に、それぞれの女性たちの個性が明確になっていったそうだ。 ゾーイ演じる弁護士リタ役はどちらかというと、ラッパーやハードロック・シンガーのような存在で、メキシコの情熱をカラフルな色で描くような楽曲。ガスコン演じるエミリア役は感情豊かで、親密かつ、どこか自虐的な切ない楽曲。麻薬カルテルのボス、マニタスの元妻ジェシーの楽曲も格別。演じたのは若手人気歌手として有名になったものの、自己免疫障害などを患い、休業していた時期もあったが、現在はキャリアの幅を広げて女優業に力を入れているセレーナ・ゴメス。ジェシーという役どころは、カルテルのボスに愛されて2人の子供に恵まれた若い母親。実際は、彼女の人生に自由はなく、ボスによって人生を決められてきた、籠の中の鳥のような存在。本当の愛に飢え、その欲望の影に抑え続けてきた怒りがあることが分かる楽曲が用意された。 オーディアール監督は、セレーナ・ゴメスのドキュメンタリー映画『セレーナ・ゴメス: My Mind & Me』(2022)を見て、脚本にあるジェシー像を、デリケートで苦悩に耐えてきた存在として詳細に書き換えたそうだ。セレーナ・ゴメスの歌うシーンも見事で、撮影も、カメラの動きで主人公を描くかのように、生々しさを感じる照明を設置。ジェシーの悪夢がその歌と踊りから分かるようなシチュエーションでスタイリッシュに撮影されている。アカデミー賞ショートリストにも入っている「Mi Camino」という楽曲をカラオケで歌うシーンは、18テイク撮ったなかで、カットなしの生の歌声が使われているそうで、記者会見では恥ずかしそうに監督のリアリティへのこだわりを語っていた。 チームでとった主演女優賞、4人目を担ったのはメキシコ人女優として活躍している女優アドリアーナ・パス。エミリアの人生を変える女性エピファニア役の楽曲は、民衆の価値観や生活から生まれたような暖かい要素がこめられていて、主人公エミリアが生まれ変わって巡り会う幸せを象徴するデュエットの旋律もまた美しく、音楽と一体になったこの映画は始まりから終わりまで躍動感に溢れている。
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