【OECD諸国では超少数派】死刑執行2年5カ月の空白 : 袴田さん再審無罪で制度見直し論再燃も
2022年7月以降、死刑執行の空白が2年5カ月続いている。袴田巌さんは死刑確定から44年の歳月をかけて、今年11月再審無罪が確定した。死刑制度について見直しの議論も起こっている。
国内で最後の死刑執行から約2年5カ月が経過した。直近の執行は古川禎久元法相時代の2022年7月、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚対するものだった。その後の葉梨康弘、斎藤健、小泉龍司、牧原秀樹、鈴木馨祐(現)の5人法相は死刑執行を命じていない。2000年以降では東日本大震災が発生した2011年と、新型コロナウイルスの流行が始まった2020年にも執行はなかったが、2年を超える空白は初めて。
刑事訴訟法では、死刑確定後6カ月以内に執行するように定めている。しかし、実際には、確定後6カ月で執行されることはまずない。2000年以降、2022年7月26日までに98人の死刑囚に対して刑が執行された。最も短いケースで確定から12カ月、長いケースでは19年5カ月だった。法務省は執行対象者を決定する基準などは一切、明らかにしていない。それどころか、かつては死刑執行の事実も公表していなかった。1998年10月、当時の中村正三郎法相の指示で執行の事実と人数の公表が始まり、2007年9月から当時の鳩山邦夫法相の指示で、氏名と執行場所も公表するようになった。 死刑執行には、その時々の法相の思想信条も反映されていると考えられる。2005年10月に法相に就任した杉浦正健氏は、就任会見で「心の問題、宗教観、哲学の問題だ」として死刑執行拒否を明言した。その後、法律で定められた職務を法相が拒否するのは問題があるとの指摘が相次ぎ、すぐに発言を撤回。しかし、約11カ月の在任期間中に死刑の執行はなかった。 2009年9月に発足した民主党政権で最初の法相だった千葉景子氏は、「死刑廃止を推進する議員連盟」に名を連ねる死刑廃止論者だったが、10年7月に2人の死刑囚に対する執行命令書にサインした。その際、歴代の法相として初めて死刑執行に立ち会い、「死刑について広く国民的な議論が行われる契機としたい」として、存廃も含めた死刑制度を考える勉強会を省内でスタートさせた。また、同年8月には、東京拘置所で絞首刑の「執行室」と、宗教者の教戒を受ける「教戒室」を初めて公開した。 2011年1月に就任した江田五月氏も、就任会見で「いろんな欠陥を抱えた刑罰だ」と指摘(その後、発言を撤回)。同年7月には千葉氏から続く勉強会が継続中であることを理由に、「当面、執行しない」意向を示した。勉強会は、その後の法相に引き継がれたが、12年3月に存廃の結論を示すことなく両論併記形式で終了した。 2009年に始まった裁判員裁判では、一般の人が死刑の判決に関わる例も出ている。その一方で、2017年には再審請求中の死刑囚に対する執行が相次いだ。 1966年に発生した静岡一家4人殺害事件で同年8月に逮捕された袴田巌さんは公判で否認したが80年に死刑が確定。獄中からえん罪を訴え続け、2014年に静岡地裁が再審開始決定を出すとともに釈放を決め、23年に再審開始が確定した。24年9月、同地裁は証拠はねつ造されたものであるとして、袴田さんに無罪を言い渡した。逮捕から58年、死刑確定からは44年の歳月を要した。死刑執行の恐怖にさいなまれながら長期に及んだ拘禁の影響で、釈放から10年を経ても意思疎通が難しい状態にあるという。 袴田さんの無罪確定を受けて、改めて死刑制度の見直し論が再燃している。国会議員や元検事総長、元警察庁長官らが参加する「日本の死刑制度について考える懇話会」は11月13日、「現状のまま存続させてはならない」との提言を発表。「根本的な検討」と、結論を出すまでの間の執行停止を求めた。 2024年末時点で、全国の刑務所に収容されている確定死刑囚は106人に上る。