中国の「過剰生産能力」と「ゾンビ企業」先送りされてきた経済悪化の大元凶
世界経済をけん引してきた中国経済の勢いが陰りを見せています。中国が経済成長を急ぐばかり、先送りにしてきた問題が今、重く自身の肩にのしかかってきています。中国が経済を立て直すために、早急に解決しなくてはならない2つの問題について、日経センター主任研究員の室井秀太郎さんが解説します。
付け焼刃の目先の景気改善策がもたらした「過剰生産能力」問題
中国の習近平総書記・李克強首相の指導部は、「供給側の構造改革」を進めている。これは、景気刺激のために総需要を膨らませるのではなく、供給サイドでより消費者の需要に合った製品を供給し、供給能力の過剰を解消しよう、というものである。特に過剰な生産能力を抱えている産業では、その削減を目指している。とりわけ重点を置いているのは鉄鋼と石炭の過剰生産能力の削減で、鉄鋼では2016年からの5年間で粗鋼生産能力を1億~1億5000万トン削減する。削減幅は日本の年間粗鋼生産量を上回る。石炭では生産能力を3~5年で5億トン削減する。鉄鋼と石炭の2業種の生産能力の削減によって180万人の失業者が出ると見込まれている。 中国の16年の粗鋼生産量は8億トン余りだった。これに対して粗鋼生産能力は12億トンあり、設備稼働率は7割を下回っている。石炭は16年の生産量が33億6000万トン余りだった。これに対し生産能力は57億トンに上り設備稼働率は6割弱にとどまっている。 鉄鋼産業では過剰な生産能力によって生産された鋼材が大量に輸出され、16年の輸出量は1億843万トンと前年に続いて1億トンを超えた。安値で大量に輸出される中国製の鋼材は世界の鋼材市況を軟化させ、日本や欧米の鉄鋼メーカーの業績に影響を与えている。過剰生産能力を背景にした中国の鉄鋼製品の大量輸出については、16年6月の米中戦略経済対話で取り上げられ、米国側が懸念を表明している。 鉄鋼産業の過剰生産能力は最近になって顕在化したものではない。08年にリーマン・ショックが起きる前から問題になっており、国家発展改革委員会(発改委)などがたびたび設備廃棄を促す通達を出していた。鉄鋼では設備の過剰に加えて、環境対策が整っていない製鉄所から出る排煙などによる環境汚染も問題になっており、発改委などの通達では、老朽化した設備や効率の悪い設備の廃棄を促していた。 しかし、何度も出された通達は、雇用と税収の確保を優先する地方政府によって無視され続けてきた。リーマン・ショックが起きると欧米の景気悪化から中国の輸出が落ち込み、中国政府は景気てこ入れのために2年で4兆元の大型景気対策を打ち出した。この対策によって鉄道、道路、港湾などのインフラ整備に投資が集中し、住宅建設も加速した。インフラ整備や住宅向けに鋼材需要が拡大し、鉄鋼の設備過剰問題は棚上げされ、設備を廃棄するどころか、増産投資が相次いで実施された。 こうして鉄鋼産業では過剰生産能力が増幅された。やがて大型景気対策の効果が一巡して、1970年代末から続いた一人っ子政策の結果、12年から労働力人口が減少に転じたこともあり、景気対策によってV字型回復を果たした中国経済は10年以降、緩やかな減速傾向をたどっている。この過程で鋼材の国内需要の伸びも低迷し、再び生産能力の過剰が問題になった。このような経緯をたどっている産業は鉄鋼だけではなく、インフラ整備や住宅向けの需要があるセメント、アルミ、板ガラスなどの業種でも過剰生産能力の問題を抱えている。 鉄鋼と石炭の2業種を重点に挙げた政府は、設備削減を掛け声で終わらせないために、地方政府に達成すべき枠を割り当てた。達成状況がかんばしくない地方に対しては、発改委が呼び出して達成に向けて圧力をかけている。70年代末に改革開放に踏み切る前の計画経済時代に逆戻りしたような経済運営である。 発改委の圧力が効いたのは石炭産業である。石炭の生産は16年の中ごろに1割を超す減少が続いた。