100万円のペットを飼育放棄――問われる飼う人のモラル、免許制を導入すべきか
飼育に税金、免許が必要というドイツ
動物愛護に詳しい弁護士の浅野明子さんは、欧州などに比べて日本は飼い主への規制がほとんどなく、責任意識も希薄だと指摘する。たとえば所有権の問題だ。 「ある人が飼っている犬を虐待して刑事犯罪になったとします。でも、日本ではその人に『その犬を今後飼ってはいけない』とは言えません。犬の所有権を剥奪できないからです。これがイギリスだと、必要があれば犬を押収(保護)できます。また、もし虐待などで有罪になった場合、飼い主の所有権を剥奪できます。それだけでなく、『将来5年間は犬を飼ってはいけない』『終生飼ってはいけない』といった処罰もある。所有権の剥奪は絶対に必要です」 日本の動物愛護法でも飼い主の責任として「終生飼養の義務」が2013年に明記されたが、罰則はなく、努力義務にとどまる。一方、海外では明確に飼い主への義務を課している国も少なくない。例えば、ドイツは飼い主に税金がかけられていると浅野さんが言う。 「ドイツの場合、市町村税の一種で、自治体により税額は大きく異なります。多頭飼いを防止するため、2頭目以降は高く設定されています」 一例を挙げると、ベルリンでは1頭目は年間120ユーロで、2頭目以降は180ユーロである。
講習の受講が課されているところもある。ドイツのニーダーザクセン州では2013年から飼い主の免許制度を導入している。試験では、しつけや世話、関連法について35の学科問題が出されるという。 飼育条件を規定しているところもある。アメリカ・ペンシルベニア州では屋外で犬をつないでおく場合、1日9時間以内でなくてはならず、気温32度以上もしくは0度以下の場所では30分以上屋外でつなぎ飼いしてはいけない。スウェーデンでは屋外でつないでおくのは1日2時間までで、生後4カ月以下の子犬を単独にしていいのは短時間に限るとしている。 このように飼い主に税を課したり、厳しい飼育条件を設けたりする狙いは、ペットをモノではなく尊厳ある生き物として扱うという考えがあるからだと浅野さんは言う。 「(海外の)規制は『動物の側から見て終生適正に飼育される』という動物福祉の観点を持っています。一方、日本は『所有者の財産を守る』という飼い主保護の観点が強く、動物福祉の観点が欠けているのです」