教育科目で「観光ビジネス」の設置が増える兆し、カギは地域と学校の連携
公教育に観光の科目がある意義
観光にはいろいろなエッセンスが詰まっているため、近年はさまざまな科目に取り入れられている。 「高校の水産科では以前からマリンスポーツを扱っていますし、農業科でも六次産業化やグリーンツーリズムなど観光に関わる分野を意識した学びが取り入れられています。他にも家庭科、英語教育でも観光を切り口に学ぶことができます。しかし、あくまで観光を切り口とした学びであって、教員の熱意があって取り入れられているケースが多いですね。1990年代に高校に観光科やリゾートコースが設置されたのは、ある意味トレンドのようなもの。私としては、観光教育がトレンドに終わらず、学校教育に根付いてほしいと思っています」 だからこそ、2022年度から商業科の選択科目として「観光ビジネス」科目が導入された意味は大きいと宍戸教授は指摘する。「これまで高校における観光教育といえば『特色ある教育』や『地域独自の教育』であり、『特別な学校や観光地の学校がやるもの』と捉えられていました。国の観光立国という旗印のもと、『観光ビジネス』が科目になって学びの内容が定められたこと、来年度には教科書も発行されることは大きな意味があると言えるでしょう。学習指導要領の改訂はおよそ10年に1度ですから、『観光ビジネス』科目を設置する学校は今後も増えるのでは。『観光ビジネス』は選択科目ですが、将来的に必修科目になるといいですね。観光関連の科目が定着すれば、他の科目への広がりが出て観光教育の体系が整っていくはずです」
地域の経済活性化に必要な専門人材
では今後、学校ではどのような観光教育がなされていくべきなのだろうか。 「観光教育には、観光について広く知ってもらう啓蒙の側面があります。例えば観光庁では2017年度から観光教育を推進するための事業を行っていますが、これは地域活性化の教育であるものの、観光について啓蒙する意味合いもあります。また、宮崎県では県とみやざき観光コンベンション協会が作成・配布した観光副読本が、県内の小学校(4年生以上 )、中学校、高校での授業に役立てられています。観光地域においては、地域の人々や子どもが観光客を受け入れるホスピタリティやおもてなしを学んだり、観光の価値に気づくことは重要です。その点を含めて社会科や『総合的な学習(探究 )の時間』などを使って広く啓蒙する観光教育も求められるでしょう」 しかし、これからの観光教育では啓蒙以外の側面の充実も求められる。 「観光立国を目指す上では専門教育も非常に重要です。この先さらに少子高齢化が進む日本が観光立国を目指すのは交流人口による経済活性化など、経済効果に主眼を置いているためです。しかし、今はどこも人手不足です。高校が最高学府となっている地域では高校が人材を輩出することになるため、高校の観光教育でも専門性を持った観光人材を育てることはとても重要になってくるでしょう。商業の科目として生まれた観光ビジネスは観光マーケティングの一部ですし、プロモーションを含めたマーケティング戦略として考えると、当然経営の話になります。『観光ビジネス』科目導入をチャンスと捉え、観光の専門教育を確立し、観光の啓蒙と両立していく必要があると思っています」