教育科目で「観光ビジネス」の設置が増える兆し、カギは地域と学校の連携
地域と連携した観光教育がカギ
これまで高校における観光教育は商業科を中心におこなわれてきたが、今後は普通科にも広がる可能性が出てきた。というのも、2022年度から、従来の普通科に加え、学際領域に関する学科や地域に関する学科などを普通科として設置できるようになったためだ。今後は、この新しい普通科に地域や観光に関する学科を設置する学校も出てくると見られている。 厚みを増す高校の観光教育だが、課題もある。高校の教員がすべて観光の専門教育を行えるわけではなく、観光への意識が高いとは限らないこと。そもそも、学校で学ぶべき学びは多岐にわたり、観光はその一つであること。これらを踏まえて、専門教育と観光の啓蒙を実現するにはどうすればいいのだろうか。 「教員は観光の専門家ではありませんし、実学である観光の学びは教室内では完結しません。高校までの観光教育は学校の中に閉じ込めるのではなく、地域に教材を求めていき、地域とつくることが望ましいでしょう。観光庁でも、今年度はDMOや観光協会、自治体観光課など地域主体が主体となって学校と連携したモデル事業を進めています。観光を地域活性化に位置付けること、それが一般化することが重要ですから、このモデル事業で得られた知見が全国に波及するといいですね」
経済効果や人手不足解消に意識を向けすぎない
地域と連携して観光教育を進める際、気をつけるべき点があるという。 「地域の観光に参画できるのが観光教育です。しかし、お祭りなどの人手不足解消のために生徒をボランティアやバイトとして扱うといったことも起こりえますから、そこは注意が必要です。大切なのは、地域の人々と教員がともに学びながら、地域をどう活性化できるのかを考えること。また、地域課題の解決やプロモーションという発想だけで観光教育を進めると、大事なことが抜け落ちてしまうことがあります。観光の持つ力や役割にはさまざまな面があり、観光教育の目的は地域課題の解決だけではありません。児童生徒が外の世界に触れることは違う価値観との出会うこと。学校交流や青少年交流などを通じてお互いを理解したり、平和について考えることにもつながります。経済効果などの数値に意識が向きがちだからこそ、こうした数値で測れない教育効果を教員が意識しておくといいでしょう」 職業教育から始まった日本の観光教育は、ようやく高校でも充実し始めた。高校、そして大学や専門学校における専門教育へとスムーズにつなぐためには、小学校や中学校における観光教育の充実も必要となってくるだろう。 新学習指導要領でも掲げられた主体的で探究的な深い学びは、地域や観光といったテーマとの親和性が高い。観光教育を通じた地域とのつながり、新しい世界や価値観との出会いは、子どもの成長を促すとともに観光の魅力や地域にもたらす”チカラ”に理解を深めることにつながるはずだ。啓蒙から専門人材の育成まで、観光教育の体系化とプログラムが確立されることに期待したい。 取材・記事:REGION 鷲山淳 / フリーライター吉田渓 編集:トラベルボイス編集部
トラベルボイス編集部