「日本カクテル」の粋、米焼酎のマティーニが海外客を魅了 アマン東京
■オリジナル米焼酎にユズ 酸味と甘みを計算
そこでまず、因泥さんは香りにこだわりました。ベースに使うのは、アマン東京の江戸前鮨店「武蔵 by アマン」のオリジナル米焼酎「武蔵」。同店の親方が鮨のシャリにするために栽培している米から作った焼酎で、アルコール度数はウオッカと同じくらいの40度と高いのが特徴です。「この度数の高さがあるからこそ、加水したときに香りの変化を楽しめるのです」 武蔵そのものの香りを嗅いでみました。まるで日本酒のような芳醇(ほうじゅん)な香りがします。「米焼酎には吟醸酒にも通じる奥深い香りがあります。それも、かんきつに近い香りがあるので、ならばとユズを合わせることにしました」 ユズは高知県産を取り寄せ、シロップとブレンドします。「こだわったのは酸味と甘み。ユズの香りを殺すことなく甘みをつけて、飲んだ時に酸味が立ちすぎないようにします」。アルコールを強く感じぬよう計算しながらシェークします。これだとマイルドで飲みやすいマティーニができあがるのだそうです。 グラスの縁を彩るユズの香りとともに、さわやかな果汁と米焼酎が溶け合ったマティーニを口に含みます。ドライマティーニとはまた違う、膨らみのある濃厚な味わいが広がった後、清らかな香気が余韻を残します。これは確かに、ゆったりと杯を重ねて味わいたいマティーニです。 「ほかのホテルではまねのできないシグネチャーカクテルです」と因泥さんが胸を張るのも納得です。日本酒に近い米焼酎からたちのぼる香りとユズの合わせ技の奥深さ。バーテンダーという仕事は、ほんとうにクリエーティブだなと実感した夜でした。 文:THE NIKKEI MAGAZINE 編集長 松本和佳 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。