大切なのはタネをつなぎ続けること
自給自足の一歩は、暮らしに必要なちょっとしたものを手作りすることから始まる。保存食や堆肥など、できることから始めてみよう。『やさいの時間』の連載「これならできる!自給自足のヒント」では、手作りの暮らしを実践する人たちの知恵と技を教えてもらいます。最終回は、次世代にタネをつなぐ自家採種。埼玉県三芳町・明石農園の明石誠一さんにお話を伺いました。 2・3月号より、一部を抜粋して紹介。
次世代にタネをつなぐ自家採種
「農家になってまもないころ、ダイコンのタネをとっているときにふと思ったんです。このダイコンはタネがずっと途切れていないから、今、ここにあるんだなって」 そんな当たり前のことにしみじみと感じ入り、今日もタネのバトンをつないでいる明石誠一さん。夏野菜の収穫が一段落した畑には、トマトやナス、キュウリの熟れた果実がわずかに残っている。タネをとるために元気に育った株を選抜して残したものだ。 東京都出身の明石さんは、2003年に埼玉県三芳町で新規就農。無農薬、無肥料を基本とした自然栽培で年間約60品種の野菜を作っている。 「小学生のときの夢が1番は宇宙飛行士で、2番目がサッカー選手、3番目が農家だったかな。自然を身近に感じられる仕事がしたかったし、自然の中で循環する農業の形が、どこかしっくりきたんですよね」
明石さんが栽培している野菜は固定種といわれるもの。遺伝的に安定しており、親から子へ同じ性質が引き継がれる品種のことである。 一方でF1品種と呼ばれる品種がある。異なる性質をもつ親を人工的にかけ合わせて作られた雑種で、両親の長所を受け継がせることで優れた特性を引き出した品種だ。ただし、その特性が出るのは一代かぎり。タネをとって栽培しても孫世代は同じ性質を受け継ぐとは限らない。つまりタネをとって毎年同じトマトやダイコンを作ろうと思ったら、それができるのは固定種しかない。もちろんF1品種でもタネとりはできるし、家庭菜園なら性質にばらつきが出てもおもしろいかもしれない。 「固定種でも長年タネをつないでいくと、選抜していった株ならではの味や形になっていくのが興味深いですね」と明石さん。 そうやって環境に合わせて、ちょっとずつ進化をしながら、タネは次の世代へとつながっていくのである。 ※種苗法では、育成者権が認められている登録品種の自家増殖(タネとり)を禁止しているが、一般品種(固定種、品種登録期間が切れた品種、品種登録されたことがない品種)はそれにあたらない。また、自家消費を目的とする家庭菜園でのタネとりについては、育成者権の影響を受けない。 ●『やさいの時間』2024年2・3月号「これならできる!自給自足のヒント」最終回 より