Suica離れで「交通系ICカード」のオワコン化が加速する!?
JR東日本は12月10日、交通系ICカードSuicaについて、今後10年以内に導入が予定される新機能を発表。利便性が大幅に向上する新機能がある一方、地方や都市部の私鉄などでは今、SuicaやICOCAをはじめとする交通系ICカード離れが進行中だという。 【写真】顔認証、QRコード乗車に両対応する山万ユーカリが丘線 2016年にiPhoneに搭載され、公共交通機関の乗車や少額決済手段として電子マネーの王者に君臨してきた交通系ICカード。今後登場する新機能から問題点まで、交通ジャーナリストの宮武和多哉(みやたけ・わたや)さんにお聞きします。 ■圧倒的ガラパゴスの交通系ICカード ――今回、JR東日本がSuicaに関する新機能を発表しました。宮武さんが気になった機能は? 宮武 「ウォークスルー改札」です。切符の購入やSuicaなどのタッチを必要としない改札のことで、これはユーザーの位置情報を活用し、10年以内に実現予定のサービスです。 26年秋には、2万円の決済上限額を廃止したSuicaとひもづくコード決済のローンチ。27年の早い段階には首都圏、仙台、新潟、盛岡、青森、秋田と分断されていたSuicaエリアを統合。これにより、Suicaのみで該当エリアの乗り継ぎ・乗り越しが可能になります。 さらに、28年度にはマイナンバーカードと連携したSuicaアプリの大規模アップデート。そして、乗車サブスクの導入も予定され、例えば「毎月3000円で自宅最寄り駅からSuicaエリアでの交通運賃が50%引き(上限設定あり)」という提案もされています。 ――かなり魅力的な新機能やサービスですが、実施予定はかなり先。その理由は?
宮武 新機能を実現するには、現行のSuicaではデータの記憶容量が少ないため、一ヵ所のデータサーバーで決済や乗車処理を行なうセンターサーバーの構築が必要です。しかし現在、センターサーバーに対応しているのは一部のエリアのみで、全エリアでの構築に時間がかかるのです。 ――最近は"Suica離れ"というワードもよく耳にします。これは、どういった理由が考えられますか? 宮武 SuicaやICOCAといった交通系ICカードは「FeliCa」という非接触ICカード規格を使用しています。FeliCaは交通系ICカードだけでなくiPhoneをはじめとするスマホやスマートウオッチにも搭載されることで、「モバイルSuica」のようにアプリ上でも交通系ICカードとして機能しています。 このFeliCaに関連する半導体、規格そのものがガラパゴス化しているのが、Suica離れの要因となっているのです。 ――具体的にはどのようなことが起こっていると? 宮武 もともとFeliCa関連の半導体は国内の大手メーカーが製造していました。しかし、20年代になって富士通や東芝などが半導体製造から撤退。 現在ではパナソニックが半導体事業を譲渡した台湾のヌヴォトン・テクノロジー社のみの製造となっています。それもあり、FeliCaの半導体が不足し、交通系ICカードの販売中止という事態になりました。 ――台湾のヌヴォトン・テクノロジー社が増産を行なえば解決するのでは? 宮武 ほぼ日本国内でしか需要のない半導体を増産することはビジネス面で難しく、市場規模が小さいことから新規参入する企業もありません。 そして、ガラパゴス化していることは導入・運用コストにも大きく影響しています。今年、熊本県の鉄道・バス運営会社が、FeliCa規格の交通系ICカードの廃止を決定し、25年春以降は利用できなくなります。 この要因となっているのがコスト面です。現在、改札用機器の入れ替え時期なのですが、交通系ICカードを利用し続ける場合のコストは約12億円、その他の決済方式に切り替えた場合は約6.7億円という試算となったのです。 交通系ICカードの運用機器などの多くはJR東日本の関連会社から購入する必要があります。その費用、そしてユーザーが交通系ICカードを利用した場合の手数料も発生することから、地方の公共交通機関だけでなく、都市部の地下鉄などもSuicaやICOCA"以外"の決済の採用が増えているのです。