無名だった、スポーツブランド「On」 意外な戦略で人気拡大、箱根駅伝を沸かすか
前回の箱根駅伝は第100回記念大会のため通常より3校多い、23チームが出場。230人のランナーは過去最多となる全10ブランドものシューズを着用していた。 【画像】Onのシューズを見る その中で独自の戦略で箱根駅伝に食い込んできたのが、スイスのスポーツブランド「On」(オン)だ。 2010年に誕生したオンは「世界で最も成長スピードの速いスポーツブランド」と呼ばれており、日本でも大躍進している。 近年はタウンシューズとしても人気を集めており、世界特許技術のCloudTec(ソールに搭載された筒状のパーツが収縮することで強い推進力を生む)を搭載したクールなデザインを目にしたことがある人は多いだろう。 2022年4月に東京・原宿のキャットストリートに世界で2店舗目、アジア初の旗艦店となる「On Tokyo」(オン・トーキョー)をオープンすると、インバウンドの顧客も多く来店。最近は街中だけでなく、ランニングシーンでも目立つ存在になっているのだ。そして前回の箱根駅伝では3人が着用した。 数年前まで、日本陸上界では「無名」ともいえるブランドだったが、オンは面白いところに目をつけた。 2023年に「今年、一番強い中距離走者を決める大会」と銘打つ「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」とパートナーシップ契約を締結。また同大会を運営するTWOLAPSの代表であり、男子800メートル元日本記録保持者・横田真人氏をオン・ジャパンのアスリートストラテジー アドバイザーに迎えたのだ。
オンの「意外な」目の付け所 どんな戦略を描いていたのか?
当時、オン・ジャパン共同代表は、こんなことを話していた。 「駅伝とマラソンに注力しているブランドは非常に多いです。われわれは後発ブランドなので、いまから同じだけやるとしてもリソースの問題もあり、直接戦えない部分があります。でも良い意味で軸をずらした戦い方ができるかなと思ったので、まずはミドルに取り組み、最終的には長距離にも影響を与えたいと考えています」 「頂上」から攻めたアシックスと比べると、オンの戦略は真逆といえるかもしれない。国内ではやや注目度に欠ける中距離種目をまずは攻めて、日本陸上界で「顔」を売っていく道を選んだのだ。 その成果は十分にあった。横田氏のプッシュもあり、オンのスパイクやユニフォームを着用する長距離選手が徐々に増えた。国内のトラックレースで「On」のマークを目にする機会が大幅にアップしたのだ。 それからオンはグローバルの取り組みとして、「On Track Nights」という陸上競技場を舞台にしたレースをウィーン、パリ、ロンドン、ロサンゼルス、メルボルンなどで開催していたが、2024年7月には国内で初開催した。その全てが“規格外”だった。 トラックレースは中距離種目(800、1500、3000メートル)のみ。バックストレートにはトンネルがあり、そのなかを選手たちが駆け抜ける。スタジアムには音楽が鳴り響き、選手の入場・フィニッシュには火花とスモークが噴き出した。観客はフィールド内でも観戦できて、選手との距離はかなり近い。観客はオンというブランドに親近感を抱いただけでなく、カッコ良さを感じたことだろう。 国内でのブランディングが進んでいるオンだが、世界に目を向けると、パリ五輪の女子マラソンでの活躍が記憶に新しい。Onアスリートのヘレン・オビリ(ケニア)が銅メダルに輝いたのだ。なお男女のマラソンでメダルを獲得したのはアディダス、ナイキ、アシックス、オンの4ブランドしかない。