三菱自動車、2024年度上期決算は営業利益12.9%減の907億円、当期純利益43.8%減の380億円 為替変動の影響に加藤社長「営業利益はほぼ計画どおり」
三菱自動車工業は10月30日、2024年度 上期(2024年4月1日~9月30日)の決算内容を発表した。 【画像】三菱自動車の2024年度 上期における業績サマリー 2024年度 上期の売上高は前年同期(1兆3308億1700万円)から1.8%減となる1兆3073億8200万円、営業利益は前年同期(1041億8900万円)から12.9%減の907億3700万円、営業利益率は6.9%、当期純利益は前年同期(674億8900万円)から43.8%減の379億5100万円。また、グローバル販売台数は前年同期(38万9000台)から1万9000台増の40万8000台となっている。 ■ 売上高1.8%減の1兆3074億万円、当期純利益43.8%減の380億円で減収減益 オンライン開催された決算説明会では、2024年度 上期の決算内容について三菱自動車工業 代表執行役副社長(CFO)松岡健太郎氏が解説。 自動車業界全体では車両供給が増加したことによる競争激化に加え、主にタイ、インドネシアでマクロ経済の回復が遅れたことで自動車需要が低迷。販売環境は依然として厳しい状況にあると説明。このような背景により、三菱自動車の上半期決算は前年同期比で減収減益という結果になった。 グローバルの販売台数は多くの地域で増加傾向となっており、全体では8%の販売増。ただし、中国市場については2023年度に行なった構造改革の影響を受け、53%という大幅減となっている。 市場別の販売状況については、アセアン・オセアニア地域ではフィリピンで全体需要の堅調な伸びを既存モデルの販売モメンタム維持で受け止めることにより、販売台数と市場シェアを大きく伸ばすことに成功。「エクスフォース」「トライトン」といった新型車が市場投入後に浸透してきていることでさらなる販売の底上げ、市場シェアの確保を目指している。一方でタイ市場では与信審査の厳格化が影響してピックアップモデルを中心に全体需要の減少が継続。三菱自動車では在庫車の管理適正化を進めると同時に、販売が堅調な「エクスパンダー」に注力して市場シェアを拡大しており、今後の需要拡大に備えていく。 オセアニア地域の中核となる豪州では景気後退による消費マインドの冷え込みも懸念されていたが、自動車の全体需要はほぼ前年並みを維持しており、三菱自動車は車両供給を増やしていく施策を行なって販売台数、市場シェアのいずれも伸長させている。 中南米ではブラジルにおける経済の本格回復、政策金利の段階的な引き下げといった影響を受けて全体需要が15%増となっており、三菱自動車では新型「L200/トライトン」、新型「アウトランダー スポーツ」の市場投入によって販売台数を増加させた。中東アフリカでは2023年秋から続くイスラエル・ガザ紛争の影響、イエメン沖での船舶攻撃を回避する航路制限から若干の販売減となっている。 日本市場では好調を維持する「デリカミニ」の堅調な販売モメンタムが全体をけん引して市場シェアの拡大、販売台数増を達成。今後は販売モメンタムを維持しつつ、大幅に商品力を高めた「アウトランダーPHEV」によってラインアップを強化。“三菱自動車らしさ”を象徴するモデルに注力することによってさらなる販売台数、市場シェアの拡大につなげていく。 北米地域の中心となる米国市場では、車両供給が増加したことを受けて販売費の積み増しといった競争が激化。三菱自動車でも市場動向に合わせてインセンティブの積み増しを実施して販売モメンタムをキープしており、引き続き市場動向を見据えて効果的なインセンティブの活用に努め、販売の質、顧客満足度の向上を重視して取り組んでいくとした。 欧州ではマクロ経済が踊り場に入っていることで厳しい販売競争が続いているが、三菱自動車では「コルト」の販売増が起点となって販売台数を増加。今後は7月から市場投入が始まった新型「ASX」の販売促進に加え、年度末に投入を予定する新型アウトランダーPHEVの予約受注活動を促進してローンチの成功に注力していく。 ■ 2024年度通期見通しは据え置き 続いて三菱自動車工業 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏から通期見通しについて説明が行なわれた。 三菱自動車ではグローバルでの自動車販売が鈍化する事業環境において、2024年度の上期には一定の収益を確保することができたとアピール。グローバル市場における自動車需要の成長鈍化、アセアンのタイ、インドネシアにおける需要回復の遅れ、米国を中心とした在庫過多によるインセンティブの急上昇といったネガティブ要因があり、一方でベトナム、フィリピンなどの成長市場の販売けん引、国内市場における三菱自動車の存在感回復といったポジティブ要因と合わせ、プラスにもマイナスにも働きうる為替変動といった不確定要素も混在。今後も11月に実施される米国の大統領選挙といった多くのイベントが控え、世の中が想像以上のスピードで不可逆的に変化していくとの見方を示した。 このような経営環境と足もとの業績進捗を踏まえ、2024年度通期の業績見通しは期初計画を据え置きとして、今後の環境変化に対して迅速、かつ柔軟に対応して計画達成を図っていくと加藤社長は述べた。 ■ 2024年度上期のビジネスハイライト また、2024年度上期のビジネスハイライトとしては、まずクロスオーバーSUVのアウトランダーPHEVをフルモデルチェンジして、日本国内で10月31日に販売開始。新しいアウトランダーPHEVでは商品コンセプトである「威風堂堂」をさらに進化させるため、駆動用バッテリの変更によってBEV(バッテリ電気自動車)らしさを向上させ、インテリアのさらなる質感向上などPHEVユーザーから寄せられた要望を最大限に反映しているという。 BEVとHEV(ハイブリッドカー)の美点を両立させるPHEVは“SUVの最適解”として注目度が再び高まっており、「新型アウトランダーPHEVはあらゆる面で歴代最高の性能、品質に仕上がった」と加藤社長は評価して、この自信作である新型アウトランダーPHEVを2025年春から欧州市場で販売をスタートさせ、その後に北米市場や豪州市場にも順次展開していくことを計画。新世代に進化したアウトランダーPHEVをグローバル展開させることにより、三菱自動車のブランドを次のレベルに引き上げていくと語った。 2023年度からインドネシア市場を皮切りに市場投入を始めたコンパクトSUVのエクスフォースは、2024年度から展開を本格化。2024年度の第1四半期からベトナム市場でも販売を始め、“三菱自動車らしさ”を具現化した商品として多くのユーザーから好評を得て、発売以来常にセグメント首位をキープして、7月、8月にはベトナム全体の乗用車販売で首位を獲得している。今後も中東や南アジアでもエクスフォースの販売を順次進め、将来的にはHEVモデルのラインアップ追加も予定して、三菱自動車らしい商品力を強化して各地域におけるシェア拡大につなげていくとした。 また、10月24日に開幕した「第9回 フィリピン国際モーターショー」では、ミッドサイズSUVのコンセプトカー「MITSUBISHI DST CONCEPT」を世界初披露。このモデルは中期経営計画「Challenge 2025」で将来的な市場投入を予定している「新型3列SUV」につながるコンセプトカーで、量産モデルは2025年度からアセアン地域を中心に展開することを計画している。 アセアン地域で生まれ、幅広い市場で愛されて三菱自動車の主力モデルの1台に成長したエクスパンダー、2023年度に発売されて好評を得ているエクスフォースに続く新たな世界戦略車になることを目指していると加藤社長は意気込みを口にした。 プレゼンテーションの最後に、加藤社長は「2024年度 上半期は、タイやインドネシアにおける自動車総需要の冷え込み長期化、米国でのインセンティブ上昇など、不安定要因の多い環境となりましたが、当社は生産や在庫の適正化に注力しつつ、計画に沿って新型トライトン、新型エクスフォースを順次展開してきました。こうした新型車の効果も活用し、厳しい需要環境のなかでも多くの重要地域で市場シェアの拡大につなげることができたと認識しています」。 「今後を見据えると、アセアンでの市況回復遅れ、政治経済の変動、世界各地で続く紛争の影響など、経済環境は楽観視できない状況が続くと想定されます。これまでの常識が覆される予想困難な時代ですが、一方で大きな可能性を秘めた時代であるとも捉えられ、危機感を持って迅速に対応しつつ、さまざまなパートナーとの協業なども通じて新たなビジネスチャンスを掴み、チャレンジし続けてまいります」と総括している。 ■ 「為替乱高下の影響は受けたが、本来の実力を示す営業利益はほぼ計画どおり」と加藤社長 後半に行なわれた質疑応答では、タイにある工場での生産台数が落ち込んでいるが、工場稼働率をどのように高めていくのかについて質問され、加藤社長は「タイでの生産キャパについては、ご指摘のとおり現在は稼働に少し余裕がある状況です。しかしながら、現在はタイの経済が大きく落ち込んでおり、これに対して政府からも景気刺激策が考えられているということですので、施策が効果を発揮してくれば販売台数が増えていく可能性も十分にあります」。 「また、われわれの電動車についてはタイで生産していこうと考えておりますので、この部分でタイの工場を活用していく。あと、パートナーとの協業のなかでも、タイにあるわれわれの工場を上手く利用する方策があれば模索していきたいですね。現状では余裕がある状況で、将来的な活用方法を考えていきたいと思います」と回答した。 一時期大きく乱高下した為替については「とくにQ2で大きく影響を受けていて、7月~9月で対米ドルで約20円ほど変わっています。やはり短期間にこれだけ大きな為替変動があると大きく影響が出てしまいます。半面で、本来の実力を示している営業利益の面ではほぼ計画どおりか計画を上振れする数値になっており、この点については、われわれとしてはあまり気にかけてはいません」と説明している。 好調な米国での販売を牽引したインセンティブの活用について、販売台数とインセンティブの関係をどのように考ているのかという質問に対しては、三菱自動車工業 代表執行役副社長(営業担当)中村達夫氏が回答。 「現在はインセンティブを使いながら台数を売り上げて北米での利益をしっかり上げている状況ですが、われわれがインセンティブを使う目的には2種類あります。1つはもちろん台数をしっかり売っていく部分で、もう1つは、主にアウトランダーが対象ですが、販売金融会社といろいろなプログラムを作っていくなかで、プライム層のお客さまに顧客になっていただこうという考えです。これが将来的に景気のよしあしに関わらず三菱自動車のしっかりとしたユーザーになっていただくということ。この2つを目的としてお金を使っています」と中村副社長は説明した。 これに加えて加藤社長は「北米全体の在庫車は、すべて合わせて200万台あたりが適正在庫だと一般的に言われていますが、これが現在は300万台程度にふくらんでいる状況で、これで各社のインセンティブ合戦になりはじめている。われわれもきちんと利益を見据えながら、少し対策を打つべきところに対策して、『わるい在庫』が溜まらないようにすることも大事だと考えています。瞬間的にインセンティブが増えている部分もありますが、利益と在庫の関係を上手くマネージメントできている状況ではないかと考えています」と捕捉している。
Car Watch,佐久間 秀