「意外な美点」を発見 “ジープ最小”のコンパクトSUV 新型「アベンジャー」公道での印象は? 気になる悪路走破性の実力とは?
ジープなのにコーナリングがとても気持ちいい!
そんな「アベンジャー」の実車を前にしてまず感じたのは、「コンパクトで街乗りにちょうどよさそうだな」ということ。とはいえ、しっかりとジープらしい雰囲気が備わっているのは好印象です。
“らしさ”を感じる最大の理由は、ジープの特徴である“7スロットグリル”が継承されているから。加えて、リアピラーの形状などに「コンパス」を始めとする既存のジープ車に通じるエッセンスが盛り込まれていることも効いているのでしょう。 キャビンでは、大人が無理なく座れるだけのサイズが確保されたリアシートに感心させられるものの、余裕があるとはいえません。ボディサイズなりの広さです。 355リットルという荷室容量を含めて、ファミリーでも使えないことはないけれど、基本はフロントシート重視の使い方にマッチするパッケージングです。 それでは試乗とまいりましょう。 第一印象は、「ジープなのにスーッと走るなぁ」というもの。モーター駆動ならではのなめらかさや爽快感をジープで感じられるのは、やはり新しい感覚です。発進や加速におけるスムーズさもはエンジン車にも到達できないレベルにあり、これまでのどんなジープよりも心地よく感じます。 加速フィールは過激さを重視したものではなく、リニアで自然な味つけ。そのため特徴という点では薄味ですが、運転のしやすさや効率を考えた設定となっています。これらは昨今、欧州で普及しているBEVと同様の考え方に即したもの。そのおかげか、高速巡行時の電費で7km/kWh以上をマークするなど、効率のよさを実感しました。 一方、「アベンジャー」には試乗前には予想していなかった美点が備わっていました。それは曲がる楽しさ。ジープなのに舗装路でのコーナリングがとても気持ちよく感じられたのです。 その理由としては、いくつか挙げられます。まず、ステアリングがクイックな特性であること。加えて、大きなバッテリーを搭載することによる重量増に対応すべく、サスペンションが硬めの設定になっていること。そして、バッテリーをフロア下に配置したことによる重心の低さなど。BEVづくりの要素が、副作用的に曲がる気持ちよさを生み出しているのでしょう。 スイスイ曲がる上に、ねらった走行ラインを外すことなく走れるライントレース性の高さはお見事。ジープ初のBEVは、まさかのコーナリングマシンだったことに驚きました。 * * * 誤解を恐れずにいうと、「アベンジャー」は“ジープのコスプレをしたシティコミューター”です。欧州車と骨格を共用するなど、設計上においてはジープ本家との血縁は薄く、オフロード走行もあまり考えられていません。 しかし、“曲がる楽しさ”という別の魅力を備えています。これまでになかった、ジープの新たな世界観を見せてくれるモデルなのでした。 ジープとはいえ、やはり時代に応じて変化していかなくては……。「こういうジープもアリじゃない!」というのが、試乗を終えた筆者(工藤貴宏)の素直な思いです。
工藤貴宏