春日井CCのコース改修 “失われた30年”と“失われなかった30年”
ゴルフ場の大規模改修には数十年から100年単位の長期ビジョンが不可欠だ。著名デザイナーを採用して、印象的なコースレイアウトを実現すればいいという単純な話ではない。 日本の将来を見通すと、ゴルファーの高齢化、キャディやコース管理スタッフの人手不足、温暖化による夏のさらなる高温化は、ほぼ避けられない現実といえるだろう。 だからこそ「将来的に『カートの乗り入れ』は必須サービスになると考えます」と大矢氏は断言する。セルフプレーで、プレーヤー自身が二人乗りカートを運転し、フェアウェイに乗り入れてプレーする未来である。
コース管理の視点で考えると、フェアウェイは乾きすぎても湿りすぎても、タイヤの摩擦によって芝生が傷む。大切なのは土壌水分の均一化と最適化だ。今回、幅1.5mから2.8mに拡張されたカート道は2台のカートが安全にすれ違えるだけでなく、U字形状で排水機能を併せ持ち、山側に配置することでプレーエリアへの水の侵入を防止する。雨の翌日からすぐに乗り入れ可能とするための工夫だ。 気象データと連携した灌水システムは、マルチデバイスで細やかな散水作業を可能にし、土壌水分の均一化と、デジタル化によりコース管理スタッフの作業も省力化する。自然な植生を生かした非管理エリアを増やし、フェアウェイ面積は約40%も拡大し、無人芝刈り機の導入によって労働量自体も削減する。余裕ができたリソースはグリーンなど重要エリアのメンテナンスに振り向けられる。
アスファルトからコンクリートに変更したことによりカート道の耐用年数は5年から30年に伸び、塩ビ管からポリプロピレンとなった散水用の配管は同じく30年から80年へと飛躍的に長くなった。新しいバンカー床の耐用年数は約80年。「すべてはゴルフ場の明るい未来を実現するための施策です」と大矢氏は解説した。
開場60周年の再スタート
開場60周年の記念日となった2024年10月23日、リニューアルを終えた東コースの営業が再開された。工事期間中はゴルフ場関係者も多く視察に訪れたというが、幾多の“日本初導入”も、もはや世界では標準である。 「ここ15年から20年、我々はこのシステムを使い続けているよ」とデール氏はさらりと言う。“失われた30年”によって広がってしまった日本と世界のゴルフ場間の溝が、ようやく少しは埋まったのだろうか。