<高校サッカー>現場復帰の71歳名将・小嶺監督がイズムを貫き1勝!
国見のすぐそばには「たぬき山」と呼ばれる小高い丘があり、全体練習の終了後に「ちょっと走って来い」と連日のように言い放っては、教え子たちを震え上がらせてきた。鍛えられた足腰、特にふくらはぎが膨らんでいる状態が魚とダブることから、大久保からは「いまでもヒラメが残っていますよ」と聞かされたこともある。 翻って長崎総科大学附属は長崎市内にあるため、厳しい屋外トレーニングに適した場所もない。それでも監督を拝命した以上は、絶対に譲れない一線がある。まずは国見時代からお馴染みの坊主刈りだ。 「別に伸ばしてもいいんだけどね。まあ、彼らはあれでちょうどいいでしょう。それはまた高校時代のいい思い出になりますよ」 もうひとつはサッカー選手である以前に、一人の人間として欠かせない礼節信義だ。開会式を控えた12月30日の朝食時のこと。食堂に姿を現すも、指揮官に挨拶をしなかった部員がいた。小嶺監督はすぐさま全員を集めて、戒めることを忘れなかった。 「勝負以前の問題だと言いました。朝に顔を会わせたら『おはようございます』と言うのは、一日のコミュニケーションのスタート。これが言えなかったら試合に勝てないどころか、人生終わりだよとまで言いました。戦術や技術はどんどん進歩する。しかし、普段の生活のなかで絶対に変えちゃいかん原則がある。何十年たとうと不変のものなのに、いまの若い指導者のなかでは置き去りにされがちなんですよ」 昨年度の選手権出場こそ逃したが、体だけでなく心をも鍛え上げた指導はチームを確実に成長させた。そしてつかみ取った、2大会ぶり4度目の全国切符。強豪・桐光学園との対戦も決まり、開幕が近づいてくるなかで勝負師の“血”が騒ぎ出したのか。 通常は「4‐1‐4‐1」で戦ってきたフォーメーションを、小嶺監督は変則的な「3‐3‐3‐1」に変えた。3バックの左・嶋中春児(2年)に倉持快(2年)を、右・森田将生(3年)には西川公基(3年)と相手の2トップを徹底マークさせた。 倉持と西川がどこにポジションを取ろうと、まるで影のように密着して自由を奪う。現代サッカーでは非常に珍しい戦術で臨んだ結果として、桐光学園の攻撃力を手詰まりにさせた。 「今日はそうせざるを得なかった。ウチの選手の能力で普通にいって、彼らを止める力はないからね。だから、仕事の役割分担をはっきりさせたかった。下手は下手なりに、己の仕事を忠実にひとつひとつこなしていこうと」 驚異の身体能力とスピードを誇るタビナスの対面に位置するFW右田翔(3年)には、こんな言葉をささやくことで恐怖心を取り除き、逆にモチベーションを高めさせた。 「彼(タビナス)を抜けば、Jリーグを抜くことになるんだぞ。そうすれば、お前もJリーグで通用することになるじゃないか」