東京に憧れない変わり者シェフ二人が地方の食文化を大化けさせるキーパーソン⁉
── すでに5回目ということで、その成果は感じていらっしゃいますか? 安冨 実際、このイベント自体、最近は結構、地元のお客さんが多いのです。僕らも最初は2万円とか3万円という価格なので、お金に余裕があって普段からそういうレストランを食べ歩いているような、一部の方々に、お客さんが固定化するんじゃないかなと思っていたのですが違った。結構新規の、しかも地元のお客さんが多くて。佐賀の中にもちゃんと価値をわかっていただいて、そこに対価を払っていただける、そういうお客さんがいるんだなと。しかもそういった方たちが回を重ねるごとに増えて行っている。だから裾野を広げて行っているという、自分の中での手ごたえはあります。 ── 地元にも世界レベルの食文化を根付かせて、それを広げていく、みたいな。 安冨 そうやって食べ手側の意識を変えていくというのも僕らのテーマかなと。お客さんが増えていけば、お店も営業的に助かるわけだし。そうすれば料理人の方も、もっと自分も新しい料理で勝負しようかなとか、思えるじゃないですか。そういう意味では少しずつですけど、裾野が広がって行ってるなと思います。 あとは、メディアの方にもしっかり発信していただいているので、結構、他の自治体さんや食業界の方々からも、佐賀って面白いことやってるよね、こんなことを行政レベルでやってる地域はないよとか、そういうお声をいただいたり。佐賀の地域性みたいなものを磨いていくというこのプロジェクトが、他の地域の方々にも参考にしていただけるような、そういう評価をしていただいている部分もあるのかなと感じます。
7皿目は「イラブチャー」。イラブチャーはナンヨウブダイのこと。自家製タイカレーソースにイラブチャーを漬け込み、銀杏と共に月桃で、沖縄の葉っぱ・月桃で包み蒸しにした。器は人間国宝に認定された井上萬二氏の作品。
地方では若い料理人さんたちがなかなか育たない
── 課題としてはどんなことがありますか? 安冨 課題は本当にいろいろあって。でも、まずは若い料理人さんたちがなかなか育たないということでしょうか。東京なら20代、30代前半ぐらいの若いシェフの新しいレストランができたとか、注目の若手シェフがいるよみたいな話はいくらでもあるのでしょうが、どうしても佐賀だとそうはいかない。 これは、佐賀だけの問題ではないと思いますが、地方でお店をやるとなると、お客さんの数も限られるし、払えるお金の上限とかも東京と比べると、大分下げなければいけない。だから、どうしてもお店自体も自分一人で完結できるような規模感のお店になりがちです。ワンオペとかで、カウンター6席、8席ぐらいとか。それはそれで料理人さんの選択肢としては全然アリだと思うのですが、逆にそういうお店ばかりになると、若い子が働ける環境が少なくなってしまう。だから外に出て行ってしまうという。