パスポート取得に30倍の賄賂も 徴兵制で急変したミャンマーの市民生活
路上で拉致、賄賂で解放も
以上が、私が昨年末に現地で垣間見た市民生活だ。しかし年が明けて事態は急変した。2024年2月10日、国軍が「4月に徴兵制を始める」と発表したからだ。不足する兵力を補う為と見られる。市民の間では不安が広がっており、大使館にビザを求める若者が殺到している。 2024年3月、ヤンゴンに住む知人に、匿名を条件に今の市民生活や今後の不安/展望についてインタビューした。 ――ここ最近、物価の高騰具合はどうですか? 私が訪れた昨年12月は特にガソリンが手に入らなかった印象ですが。 並んでも手に入らないほどのガソリン不足は解消されましたが、値段は相変わらず高騰しています。12月より10%くらい上がってます。 ――電力事情はどんな感じですか? それもますます悪化しています。午前5時から午後6時までの間で毎日4時間、強制的な停電が起きています。午後5時以降は回復するけど、それは居住地区によりけりです。例えば明日、私の地区では午後5時から午後9時まで電気がつきません。 ――ヤンゴンやマンダレーの治安はどうですか? ヤンゴン市民は今でも夜中に出歩いていますか? 昨年末、ヤンゴン港はクラブやナイトマーケットが賑わっていましたが。 そうですね……ヤンゴンでは、上位中産階級や上流階級は今でも夜中にパーティーやコンサートに行っています。 4月の水かけ祭り(※ビルマ暦の新年を祝う行事)までは安全だけど、4月末からまた悪くなる気がします。今、国全体がラカイン州都の戦いの結果に注目しています。もしAA(※少数民族の武装勢力「アラカン軍」)が勝てば、戦いはピィやバゴーにまで及ぶでしょう。 マンダレーに関しては、午後8時以降出歩くのは危険です。だけど、富裕層やその子供たちは夜中でもバーやクラブに出かけています。 ――最近ヤンゴンの路上で、若者たちが拉致されているというニュースを耳にしました。これは国軍によるものですか? そうです。自宅からバス停までの間に(そういった拉致が)行われています。 ――国軍の報道官は「徴兵制は4月から実施する」と言っています。まだ3月なのに、国軍が若者を拉致して入隊させているのですか? まさにそうです。賄賂を払えば解放してくれる場合もありますが、運次第です。なぜなら、金が欲しいか人手が欲しいかはその時々によるからです。 ――徴兵制の発表以降、外国への退避を希望する市民が増えているとの報道があります。例えばタイ大使館は申請者を1日400人に制限しましたし、日本大使館はビザ申請予約を電話ではなくメールに切り替えました。今、パスポートを申請するのは難しいのですか? 公式の手続きと非公式の手続きがあります。前者の場合、予約で大体4カ月待ちです。その後事務手続きを行い、さらに2週間後に受領できます。費用は5万チャット(約2250円)です。後者は、いわゆる賄賂です。受領まで7日で済みますが、費用は最低でも150万チャット(約6万7500円)かかります。 ――現状と今後の展開についてどう思いますか? まさかここまで戦闘が長続きするとは思いませんでした。全ては、バゴーとタウングーでの戦いにかかっています。これらの町はヤンゴンのボーダーなので。 ――今後の希望と言うか、良い兆候はありますか? 良い兆候で言うなら、ミャンマー国軍が負けることと離脱兵についてですね。もしラカイン州が解放されれば、国軍の拠点であるネピドーで戦うことになるでしょう。私たちは、最後の戦いは今年8月か11月と予測しています。私は、国軍が今年負けることを願っています。
村上巨樹