パスポート取得に30倍の賄賂も 徴兵制で急変したミャンマーの市民生活
日常を楽しむ若者たち
滞在中、私はデモに遭遇しなかった。ヤンゴンではクーデターが起きた当初大々的に行われていたし、それが沈静化した後はフラッシュモブと呼ばれる散発的に行う形に変わっていった。しかし今はそれすら見かけなくなった。国軍や警察のさらなる締め付けの結果なのだろう。 とはいえ、街を散策すると反国軍のメッセージを時々見かける。電柱に、トタン板に、郵便ポストに、地面に。「MILITARY COUP MUST FAIL(軍事クーデターは失敗する)」「WE SUPPORT CRPH(我々は連邦議会代表委員会を支持する)」のように文字で伝えるものもあれば、反軍政を意味する三本指のグラフィックアートもある。表立ったデモから、声の上げ方が変わったのだろう。 大変な状況である一方、笑顔溢れる市民の姿も多く見かけた。例えば夜の過ごし方。ヤンゴン港に面したコンテナがうずたかく積まれたエリアにはナイトマーケットや若者向けのクラブや船を改装したレストランがあり、派手な電飾をきらめかせながら営業を続けている。 集う人の数も多く、屋台で酒宴をしたり、路上ライブを行うアマチュアミュージシャンと一緒に有名曲を合唱したりする人々を見かけた。一瞬この国が紛争中であることを忘れてしまうほどだ。 他にも、大型ショッピングモールは客で賑わい、ゲームセンターでは熱中する若者の姿があり、高級カフェでは着飾った若者たちがSNSに投稿する写真を撮り、ダウンタウンを集団で疾走するロードレーサーもいる。平和ではないし治安も良くない。しかしそれはそれとして、普通の人々が普通の生活を笑いながら過ごしているのもまた事実で、日常と非日常の奇妙な同居が成立している。 クーデター以降、閉店した店は山ほどあるだろうが、その後新たにできた店も少なくない。その一つに、ヤンゴンでも数少ない漫画喫茶がある。日本語で書かれた日本の漫画が本棚のほぼ全てを埋めているこの店は2023年秋にオープンした。日本のアニメや漫画好きな若者たちが、冷たいジュースを飲みながら漫画を読んだりTVゲームで遊んだりしていた。