兵庫県知事選「大手メディアの敗北」を招いた放送法4条はいま必要か?SNS規制強化より、「政治的公平」の撤廃が筋だ
■ 「電波にのった情報」と「ネットサービス」の差を意識しない時代に そうした特別な展開を見せている背景には、今回の兵庫県知事選挙を通じて、電波放送における選挙報道の在り方からネット通信を通じたSNSの在り方、そして選挙規制の見直しまで、幅広く複雑な論点が顕在化したことがあります。 そもそも、放送と通信を巡る議論自体は20年前から始まり、様々な法制度が見直されてきました。 2006年の総務省「通信・放送の在り方に関する懇談会」を皮切りに累次の改革が進められ、通信業界と放送業界の相互参入が進みました。2016年にはAbemaTVが多チャンネル動画配信サービスを開始し、本年5月には改正放送法も成立、スマートフォンのみでNHK受信契約を結べるようになることが決まりました。 こうして放送と通信、電波とインターネットは、デジタルコンテンツの提供側から見れば依然として様々な法規制が網の目のように張り巡らされているのですが、コンテンツを視聴するユーザーの側から見れば、自分の視ている映像が電波にのって届いたのかネットサービスなのかが分からなくなるぐらい融合し、その差を意識しない時代がやってきているのです。 ■ 既存メディアの萎縮と“針小棒大”な報道 焦点となっている政治報道、選挙報道については、放送事業者は放送番組の編集にあたり「政治的に公平であること」(放送法4条)が求められているため、テレビをはじめとする放送事業者は、特に選挙が近くなると関連する報道に過度に及び腰となり、有権者に有用な情報であっても報道しないという傾向がますます強まってきています。 厄介なのは、そうした既存メディアが、放送法を背景にして選挙報道に過度に抑制的になるだけではなく、そうしたリスクアバース(リスク嫌忌的)な姿勢が、行政トップである斎藤知事のパワハラおねだり疑惑等を針小棒大に報道し続けるという、権威主義的で一方的な報道姿勢と表裏一体となっていることです。 既存メディアが、斎藤知事の取るに足らないパワハラおねだり疑惑を報じ続け、元県民局長による内部告発(怪文書)についても大きく報じられる中、元県民局長の処分は調査結果を待ってからにした方がよいとの部下の意見具申にもかかわらず、斎藤知事は「この騒がしい状況を早く静めたい」「風向きを変えたい」と考え処分を急ぎ(井ノ本知明前総務部長)、問題が深刻化していきました。 私は、早い段階から、こうした斎藤知事に係る一方的な報道姿勢は、「(安倍内閣の)森友学園(に係る報道姿勢)と同じ」(9月1日Xポスト)であると指摘してきました。国有地払い下げの杜撰さや安倍昭恵夫人の関与などは取るに足らないものばかりでしたが、報道が過熱し、近畿財務局が決済文書を改竄してしまった。 同じように、斎藤知事のパワハラ疑惑等は学級会レベルのものばかりでしたが、報道の過熱を収めたいと斎藤知事は内部告発=公益通報への対応を誤ってしまったのです。