「食べたら吐けと言われた時代と比べ たら」元五輪代表・小松原美里が語る 「アスリートと生理」問題の変化
フィギュアスケートのアイスダンスで北京オリンピック団体銅メダルを獲得した小松原美里さん。今年4月に競技から引退し、指導者としての道を歩み始めた小松原さんに、アスリートと生理の関係についてお話しいただきました。 【画像】元五輪代表・小松原美里が語る 「アスリートと生理」問題の変化
初潮を迎える前から生理に悩み続けた現役時代
――最近では、生理について語るスポーツ選手も増えてきていますが、生理不順や重い生理痛に悩まれてきた方が多いように感じます。引退されるまでアスリートとして生理とどう向き合ってきたかについてお聞かせください。 私も引退するまで、生理については悩み続けました。試合前に体重を落とすと生理が止まるというのは当たり前にありましたし、生理があればあったで、生理前のイライラや食欲増加といったPMSにも悩みました。 フィギュアスケートは審美スポーツということもあり、生理前後の体のむくみも気になりましたし、アイスダンスは男性が女性を持ち上げるリフトという技があるので、練習をしていてもナプキンのカサカサという音がするのがとても嫌でした。 ――生理にまつわる悩みを抱えたのは、具体的には何歳ごろからですか? 生理がくる前から悩んでいました。というのも、すごく痩せていて、生理がなかなかこなかったんです。16歳で初潮を迎えたものの、それがちょうど大会と重なってしまって……。衣装を着て出場はしましたが、演技はボロボロでした。 ――令和になった今でも、生理についてオープンに話せる環境は限られるかと思います。小松原さんが10代だった当時、選手同士で生理について話したり、相談したりアドバイスをくれる人はいましたか? 唯一、話せたのは母です。母には壁を作ることなく、なんでも話せました。ただ、有名なコーチに「生理はないほうがいい」と言われたり、「生理がないのは、体重が軽いということ。よかったね」と褒められたりする環境だったので、母もどうしたらいいのか悩んだと思います。 私自身、生理が止まったことを褒められて嬉しいとは思えなかったし、何かおかしいな、という感覚もありました。だから、心も苦しかったですよね。 ――さすがに今の時代、生理が止まって褒められることはないですよね? 科学も進歩して、生理が止まると骨粗鬆症のリスクが高まり、怪我をしやすくなることがわかり、アスリートの体づくりという面からも生理が止まることはよくないというのがだんだん浸透していると思います。 フィギュアスケートでは、骨密度を測って、数値が低い子には「もっと食べなさい」という指導が入るようになりました。骨密度の低い子が少なくないというのは懸念材料ではありますが、食べたら吐けと言われていた時代と比べたら、かなりの進歩ですよね。 ――生理がないことを褒められる世界に身を置いていて、どのタイミングで生理との付き合い方を軌道修正できたのでしょう? イタリアで競技生活を送っていた23歳のとき、子宮にできたポリープの除去手術を受けました。それまでは、生理が止まろうが成績が出ていればいいや、という思いが自分の中にあったのですが、手術をすることになり、「もしかしたら、自分の体には何か問題があるのかも」と考えたことが、体と向き合うきっかけになりました。 それからは食事のスタイルを変えたり、今でいう温活にも取り組んだり。自分で自分の体をケアすることの大切さを知り、実践するように変わっていきました。 ――イタリアでも生理の話はタブーでしたか? 手術が決まったら、ヨーロッパの子たちは「私もなったことがあるよ」とか、すごく気さくに話してくれるんです。生理についても話すし、ピルを使っている子もたくさんいました。それで、私の意識も変わっていったんですよね。 コーチやパートナーに「今日は生理だから、リフトで回ったりするのは少なめにしたい」などと話せるようにもなりました。 ――ヨーロッパの選手から話を聞いて、ピルを試してみようとは思わなかったですか? 試してみたい気持ちはありました。でも、当時はピルを飲むと太りやすくなるという間違った情報を聞き流すことができなかったし、もし試して成績が落ちたら嫌だなと思って手が出なかったです。 実際にピルを飲むようになったのは、競技を引退するまでの半年間ほど。相談に乗ってくださる方ができて、生理を起こしてから試合当日を迎えるか、試合が終わってから生理を起こすかなど、タイミングについても慎重に相談しながら生理をコントロールすることができるようになって、とてもラクになりました。