巨大なインドの動画サブスク市場、ネットフリックスは大苦戦
ニーズに合致するインド国内の配信サービス
国内志向が強いインド市場では、主なものだけでも以下のようなインドの配信サービスを展開している。 ウェブサイトのオリジナル作品85本をさまざまな地域言語で展開しているSony Liv。いち早く多言語での展開の必要性を提唱したのもこのブランドで、ホームドラマ『Kacho Papad Pako Papad』などの作品が好評を博している。 Eros Nowはボリウッド映画の配給会社エロス・インターナショナルの配信サービスで、1万1000本以上ものデジタル映画タイトルをインド国内10の言語で配信。2017年に1100万人だった登録者数は2019年第1四半期に1億1300万人まで急増、有料会員は1000万人超に達している。コンテンツの7割を映画が占める一方で、これまでに180本以上の映画と、短編オリジナル作品は300本以上配信。インドで最も人気の高いジャンルであるコメディ作品『Side Hero』で、初の完全オリジナルシリーズをリリースし、将来のブランドや作品、サービスの構築に投資をし続けると意欲を見せている。 複数のインドの言語での展開を計画している国内ブランドは他にVoot、Zee5。コンテンツの大量生産に取り組んでいるALT BalajiやHoichoiでは、ベンガル語でのオリジナル作品も多数配信。世界最大のベンガル語エンターテインメント・プラットフォームであるHoichoiは、国内だけでなく中東やバングラデシュでの展開を計画している。
問われる市場特有のニーズへの対応力
世界最大の人口を抱えているインドでは、連邦公用語であるヒンディー語のほかに、ベンガル語、マラーティー語など憲法で公認されている州の言語が21あり、その他数百もの言語が使われている。ヒンドゥー教徒が80%を占める中、イスラム教徒が15%弱、キリスト教徒、頭にターバンを巻いたシク教徒も存在する複雑な社会構造だ。前述のとおり、テレビの衛星放送が900チャンネル近くあるのもこうした背景がある。 独特なスタイルで明るいボリウッド映画とクリケットの試合は、伝統的に国民が夢中になる娯楽の中心であり続ける中、これにモバイルゲームや配信サービスが浸透してきている。また、映画鑑賞は映画館で自由に他の観客と声を出して一緒に盛り上がるというスタイル、家庭でのテレビ視聴は家族全員で一緒に、という団体行動を好むのもまたインドの特徴。子どものいる家庭であっても、子ども向け番組ではなく、一般娯楽番組を中心にインド映画、ニュース番組を視聴しているという調査結果がある。 こうした背景を踏まえつつも最も重要な点は、これまでわずか150~300ルピー(約270円~540円)で平均300チャンネル、ハリウッドやボリウッド映画の最新作を視聴できていた人々の金銭感覚だ。 配信サービスの人気が注目される一方で、低価格(月々129ルピー、約232円)で映画やドラマ、スポーツを視聴できるYouTube Premiumが最大の人気を保持し続けるのも、こうしたインドならではの事情がある。Netflixでも2021年末に499ルピー(約900円)のベーシックプランを 199ルピー(約360円)に値下げをし、これによって加入者の離脱を防ぐことができたと言われている。 ビジネスコンサルティングサービスのRBSA Advisorsの予測によれば、2030年までにインドのビデオ配信サービス市場は、125億ドル(約1兆8700億円)規模にまで成長すると見られている。 Netflixは複数回に渡って、料金の値下げを実施することで加入者数の増加と、売上額のキープを果たしてきた。今後は、Netflixのみならずすべての配信サービス企業は、新規加入を促すと同時にいかに「加入者の退会」を防ぐかが課題になってくると専門家たちが指摘している。
文:伊勢本ゆかり / 編集:岡徳之(Livit)