他人へ響く美しさとは限らない ベントレー・コンチネンタル S2(2) 財力に物をいわせた独自ボディ
不格好に後方へ弧を描くウエストライン
このコンチネンタル S2は、1970年代初頭に転売。1973年から1974年にかけて、ベントレーのディーラー、ジャック・バークレー社がレストアを施した。1978年に、別のクラシックカー・ディーラーを通じて販売されている。 2023年に手放され、H&Hダックスフォード・オークションへ出品。それまでの間にボディはシルバーへ塗装され、細かなアップデートが加えられた。フロントのウインカーは、ロールス・ロイス・シルバークラウドIII用のものだ。 実車を目の当たりにすると、サイド寄りの角度で眺めない限り、リアのオーバーハングが短いことには気付きにくい。それでも、ウエストラインは少し不格好に後方へ弧を描く。バランスが良いとは感じにくいだろう。 現在は、丸いオーバーライダーは変更。本来のデザインのものへ付け替えられている。スポットライトも、フロントマスクへ調和する円形へ交換済み。ダミーで与えられていた2本のテールパイプも、省かれている。 FLMパネルクラフト社は、リアフェンダーとトランクリッドのスタイリングに、最善を尽くしたとはいえるだろう。それ以前にマクロードが依頼した、独自ボディ以上の魅力があるとは、表現できないかもしれないが。
多くの人へ響く美しさになるとは限らない
彼も、もう少し改善できると考えたのかもしれない。2年後の1962年に登場したコンチネンタル S3のショートテール化を、FLMパネルクラフト社へ依頼している。 S2ベースとは異なり、リアウインドウからトランクリッドを滑らかなラインで繋いだ、ファストバック風のシルエットが選ばれた。より美しいプロポーションに仕上がっていたといえる。 リアバンパーからはオーバーライダーが外され、ナンバープレートはトランクリッドへ貼られた。給油には、そのトランクリッドを開く必要があった。フロントシートはスライド可能。ダミーのテールパイプが組まれ、バッテリーは荷室内へ移設されていた。 このS3は彼が手放した後、歌手のエンゲルベルト・フンパーディンク氏が1979年に購入。2018年に、ボナムズ・オークションへ出品されている。 大富豪の醍醐味の1つは、底を尽きない財力に物をいわせ、理想のクルマを手中に収められることだろう。しかし、必ずしも望ましいデザインが導かれるわけではない。大枚を叩いて個性的なボディを与えても、多くの人へ響く美しさになるとは限らない。 協力:テルクリスティ・カーセールス社
マーティン・バックリー(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)