案外知らない、ADHDの子に生じてしまう「二次的問題」や「後遺症」…「ADHDの子」と接するときの「バカにならない工夫」
おだてまくる
環境調整としては、学習に際して周囲の刺激を減らし注意散漫を治める工夫を行うこと、叱責をなるべく減らし情緒的な不安を軽減することがその中心である。このような工夫はバカにならない。 『窓ぎわのトットちゃん』で、窓際にイスがあったトットちゃんが表を通るチンドン屋さんに注意を引きずられて授業にならなかったという場面を思い起こしてほしい。教師のいちばん近くの最前列中央に席を移動するだけで、学習が可能になる児童は数多く存在する。少人数クラスに移行するだけで学習が奇跡のようにできるようになる子も存在する。また睡眠不足のときは注意の転導性は著しく亢してしまう。こういった子に限ってゲームに没頭して遅く寝て睡眠不足で登校したりしている。I君において、早寝早起きを最初に指導したのはこの点の改善をねらってのことである。 また本人のやる気や努力意欲はおそらくもっとも大きな要素である。この点、ADHDは診断基準の症状の中に「精神的な努力を必要とする課題を避ける」という特徴が挙げられているほどであり、また何度も触れているように多動性の行動の問題は周囲からの叱責を招きやすいので、容易に情緒的なこじれに展開してしまう。 両親や教師など子どもを取り巻く周囲の人間がADHD児に対して「おだてまくる」覚悟が必要なゆえんである。努力すればそれなりに成果が挙がるという体験をすることはADHDのみならず、すべての子どもに必要な体験であろう。 大人数のフォローアップでは、成人に達したときに、ほぼ問題のない状態が3分の1、集中困難や多動の症状が残っているのが3分の1、抑うつなど情緒的な二次的な問題の併発が3分の1であると報告されている。しかしながらこれは、『発達障害の子どもたち』第7章で取り上げる子ども虐待の後遺症としての多動性行動障害の事例が不可分に混入しているので、本当の(? )ADHDはもっと良いのではないかという実感があるのであるが。 ※本書で取り上げられている事例は、公表に関してはご家族とご本人に許可を得ていますが、匿名性を守るため、大幅な変更を加えています。
杉山 登志郎