〈奥能登豪雨〉歩けぬ母、濁流襲う 門前・皆月、75歳中村さん 長男「2階に行ければ…」
●地震後に骨折 川からあふれた濁流が、足の不自由な高齢女性の自宅を容赦なく襲った。25日、新たに安否不明者として公表された中村菊枝さん(75)=輪島市門前町皆月=は、豪雨の当日、自宅に1人だった。能登半島地震後に足の骨を折り、満足に歩けなかったという菊枝さん。長男は「母はいつも1階の居間にいた。せめて2階に逃げられれば」と悔しさをにじませた。 【写真】中村菊枝さん(研紀さん提供) 菊枝さんの自宅は、皆月川が湾曲した先に位置しており、大雨によって氾濫した川の水が押し寄せたとみられる。1階には大量の木や土砂が流れ込んだが、2階部分は無事だった。 長男の団体職員研紀(けんき)さん(53)=門前町道下=によると、菊枝さんは元日の地震発生後、避難先で足を骨折しており、2階に移動できなかったとみられる。研紀さんは「居間から階段までは4歩か5歩。2階にさえ逃げることができれば」と言葉を詰まらせた。 研紀さんは豪雨が発生するちょうど1週間前の14日、妻と松風台保育所に通う4人の子どもを連れて実家を訪れ、一緒に弁当を食べた。 「にこにこしながら『ちゃんと食べんとだめやよ』と子どもたちに声をかける母の表情が目に焼き付いている」と研紀さん。「何とか早く見つかってほしい」と声を振り絞った。 現場では25日、100人規模で捜索が行われたが、発見には至らなかった。