旅の目的はおいしいもの。大分・別府の「地獄蒸しプリン」を知っていますか?【人気料理家arikoさんのおいしい大人旅②】
「おいしい情報ならこの人」という信頼度大の人気料理家のarikoさんが〈添乗員〉となって、おいしい旅話を伝えてくれるエッセイ本『添乗員ariko まだまだおいしい日本の旅』が刊行されます。生粋の食いしん坊であるarikoさんにとって、旅先であってもおいしいものは欠かせません。というより、おいしいものありきで旅を決めることも多いというarikoさんに、出版を記念しておいしい旅話やおみやげ話をおすそ分けしていただきます。一回目は大分・別府から! 【写真】「これ絶対美味しいやつ…!」岡本屋さんの「元祖地獄蒸しプリン」を見る
大分・別府名物「地獄蒸し」を知っていますか?
いたるところから湯煙が上がり、温泉が湧き出ている、おんせん県大分。源泉数、湧出量(ゆうしゅつりょう)ともに日本一を誇るだけに、地元の人たちは温泉に浸かるだけでなく、生活の中に取り入れ利用してきました。その中でも最もポピュラーなのが「地獄蒸し」です。 地獄蒸し、と聞くとなんとも恐ろしい響きですが、要は温泉から噴き出る高温の蒸気を利用した調理法のこと。地元で採れたばかりの新鮮な魚介や野菜を竹籠に入れて一気に蒸し上げる調理法は、素材の持ち味を最大限に生かしながら、温泉のミネラル分も摂取することができます。どんな食材もヘルシーにいただけるとあって、今の時代にフィットするものだと思います。別府の中心に位置する鉄輪(かんなわ)地区には、湯治客のための旅館をはじめ、あちらこちらに地元の人が気軽に使える“地獄釜”(!)が設けられています。 今回ご紹介する明礬温泉の老舗旅館、岡本屋さんの「元祖地獄蒸しプリン」も温泉の蒸気を利用した地獄釜で蒸し上げることからその名がつきました。別府温泉ならではのおみやげを、と考案され、1988年から作り続けられているこのプリンはカスタードプリンのお手本のような一品。濃厚なカスタードは甘さ控えめで、なめらかな舌触りが特徴です。しっかり焦がしたビターなカラメルと相まって、甘いものが苦手な人にも好評で、小ぶりなので1個ペロリと食べられてしまうどころか、もうひとつ食べたくなってしまうほど。 こちらのプリン、地元産の新鮮な卵に牛乳、生クリーム、砂糖を合わせた生地をカラメルを流した器に注ぎ、硫黄分をたっぷり含んだ高温の湯気で蒸しあげることでなめらかさと卵の甘さが際立つ仕上がりになっているそう。ちなみに、機械に頼らず、職人さんによりひとつひとつ丁寧に手作りされています。その日の天気や気温、噴気量などさまざまな要素でコンディションが変わってくるため、1分1秒が勝負。いつでも極上のなめらかさに仕上げられる、絶妙な加減を見極められるのは熟練の技としかいいようがありません。 この絶品プリンをいただけるのが、岡本屋旅館から少し坂を登ったところにある岡本屋売店。シンプルなプリンを始め、このプリンを使ったソフトクリームやパフェに仕立てたスイーツも人気です。ほかにも温泉で蒸した卵を使った「地獄蒸したまごサンドイッチ」(必食です!)や、とり天うどんなど何をいただいてもまちがいないおいしさ。別府のやや高台に位置する明礬温泉にあるので、ドライブを兼ねておみやげを調達しがてら、こちらでランチをするのもおすすめです。 この春に別府で行われた将棋の名人戦で、藤井聡太名人が午前のおやつにこちらのプリンを食べたことでも一層人気が出たそうで、入手困難になりつつあるとか。最近では大分空港の売店でも扱うようになったので、運が良ければそちらでも出会うことができるかもしれません。お取り寄せも可能なので、ご自宅で絶品プリンをのんびり味わうこともできます。私はお取り寄せした際には、軽く泡立てた生クリームや紅茶に浸したプラムなどをプリンに添え、濃いめの珈琲と合わせて喫茶店気分を楽しんでいます。 次回もおいしい旅エピソードをご紹介していきますね! 皆さんの来年の旅先の参考となりますように。 ariko/ありこ 人気ファッション誌を担当するエディター、ライター。インスタグラム(@ariko418/フォロワー数22万人超)でのセンスあふれる料理の写真と食いしん坊の記録が話題を呼び、「おいしい情報なら間違いない」と信頼される存在に。レシピ本を多数刊行している料理家でもある。著書に『arikoの食卓』シリーズ(ワニブックス)、『arikoのごはん』『arikoのおいしいルーティン』(講談社)、『ありこんだて』(光文社)ほか。 文/ariko