母親殺しの少女の無実を証明するために口紅を塗り…西田敏行さんが田舎刑事を演じた『特捜最前線』で魅せた「人情と暴走」
第36話「傷痕・夜明けに叫ぶ男」
(脚本:長坂秀佳/監督:松尾昭典) 「愛の刑事魂」を手がけた『特捜最前線』のメインライター・長坂秀佳が、西田敏行のコメディセンスを生かしたエピソード。 自称社長の陽気な嘘つきホームレス「仙さん」と知り合った高杉刑事、仙さんは代議士の伊勢原による殺人を目撃していたが、何度も証言の辻褄が合わず、高杉は窮地に追い込まれる。 虚偽を繰り返して「なにか」を伏せながら、殺しを目にしたことは事実らしい仙さん。息子家族からも絶縁された老ホームレスに高杉は、みずからの亡き父を重ねてゆく……。 まさに西田敏行オンステージ。ふっくら顔で泣いて笑って暴走し、 「俺はね、人間ですよ!鬼じゃないんです!だから鬼の下で働くなんてまっぴらなんだ!」 と、神代課長にも感情をぶちまける。やせっぽちの仙さんを演じる加藤嘉は映画『砂の器』の本浦千代吉役など、「にっぽんのおじいちゃん」ともいうべき存在であり、その人懐っこさは西田に負けていない。 現場たたき上げの脚本家・長坂は 「西田に自分を投影したから、親父の話になったんだ。親父を描く、というのがオレの生涯のテーマだからね」 と後年、自伝的著書『長坂秀佳術』で語っており、西田もまた本エピソードが大好きだったという。倒叙ミステリとしての工夫も抜群、なおサブタイトルの「夜明けに叫ぶ男」はオープニングで高杉に冠させた紹介ナレーションである。
第54話「ナーンチャッテおじさんがいた!」
(脚本:長坂秀佳/監督:天野利彦) 電車での迷惑行為を注意した勇気あるサラリーマンが、チンピラ三人組に夜道で撲殺された。捜査のため、幼い遺児のため、目撃者を探す高杉刑事は車内で「ベロ出しおじさん」と呼ばれる初老の男(今福将雄)と出会う。 そのおじさんもまた、電車での迷惑行為を次々と指摘。相手に怒鳴られるや大げさに泣いて狼狽させ、そしてベロを出して周囲を笑わせるという奇行を繰り返していた。そんな裏には、哀しき過去が……。 当時の都市伝説「なんちゃっておじさん」をきっかけにした脚本であり、都会における他人への無関心をめぐって特命課のなかでもディスカッションが発生。人情たっぷり熱い高杉の主張に対し、冷静な反論が出てくるのも見どころだ。 さらに「ベロ出しおじさん」に続いて、サブタイトルの「ナーンチャッテおじさん」が驚くべきかたちで登場する。後年、映画『アウトレイジ』のヤクザ役で「怖さ」を示した西田敏行だが、本エピソードにおける犯人逮捕のキレっぷりも相当なもので、連ドラ初主演作『池中玄太80キロ』の勢いを予感させてくれる。 長坂秀佳×天野利彦、『特捜最前線』を代表する脚本家と監督が初めて組んだ回であり、エモーショナルなショットの積み重ねによる天野演出が炸裂。京成線と都電荒川線をロケ地に、行き交う電車をギュッと凝縮して捉えた望遠ショットが頻出する。いまや失われた「昭和」の風景も『特捜最前線』の名物だ。
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