石巻に大学院生で飛び込んで10年 空き家活用でビジネス展開してきた女性代表 #あれから私は
渡邊の事業への評価は高い。2016年には日本都市計画学会計画設計賞を、2019年には日本政策投資銀行主催の「第7回DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」で「女性起業大賞」を受賞した。 事業を始めた当初は「巻組=自己実現」と気負っていたが、起業から5年が経ち、「自分が力不足だったら信頼できる誰かに任せればいい」という境地にたどり着いた。 「必要とされないのであれば畳めばいい。一度決めたことに執着したり縛られたりしなくていいんだと思えるようになりました」 持ち家の処分に苦しんできた大家が顕在化され、復興をきっかけにこの町で暮らそうと思った若者らに住宅を提供できたことは大きな意味があった。一方で、大きなインパクトを起こせていないと歯がゆい思いを口にする。現在、巻組の株式会社化を視野に入れている。
次の10年は循環型の経済に
震災から10年。振り返ってみれば、さまざまな復興事業が失敗だったと渡邊は感じている。その典型が土地の整備などハード面のインフラだ。 「ハード面ではかなり供給過多な部分がありました。そもそも企業と行政と政治という三角形の構図のなかで、中心になって進める方々がバブル時代を経験している。だから、人口増加を前提とした復興予算の使い方、リニア(直線)型の経済が先行していたのでしょう」 その一方で、震災復興という課題が大きかったからこそ創造的な変化も生まれたという。 「あれだけのボランティアも含め、人生を懸けて何かやってみようという社会的な意識が生まれた。なにより若い人が地方に移住して働くことが普通になった。2020年から続くコロナ禍において、これはさらに顕著になっていくと思います」
渡邊は次の10年が、「人口減少が前提でも成り立つ産業構造になること」を期待している。その中心はハードではなく、次世代の産業の育成であるべきだとし、さらに循環型の経済にすべきだと熱を込める。 「例えば、私の友人には、仮設住宅をいろんな用途に再使用できる技術を開発している人がいます。一定の使用後に廃棄せず別の用途でも使えたほうがよいからです。これまでの無駄を冷静に見極め、どう循環型の仕組みにしていくかは、みんなで考えないといけない」 それは巻組の方向性にも言えるという。 「現時点ではまだ十分ではないですし、インパクトや規模感をこれからの10年は意識していきたい。私たちの事業が経済的にインパクトを与えるということを、しっかり打ち出していきたいと思います」 (敬称略) --- 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞、『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。 堀香織(ほり・かおる) ライター。大学卒業後、『SWITCH』編集部を経てフリーに。『Forbes JAPAN』ほか、各媒体でインタビューを中心に執筆中。単行本のブックライティングに是枝裕和著『映画を撮りながら考えたこと』、三澤茂計・三澤彩奈著『日本のワインで奇跡を起こす』など。鎌倉市在住。