石巻に大学院生で飛び込んで10年 空き家活用でビジネス展開してきた女性代表 #あれから私は
お菓子の缶で気づいたビジネスの基本
渡邊ははじめから起業を考えていたわけではない。商売の知識もないまま、移住ニーズの解決のために空き家を借りて、改修して、移住者に転貸した。当初はビジネスという意識もなかったが、活動するなかで胸を弾ませることがあった。それは、当時、金庫代わりに使用していたお菓子の缶だった。中には住人からの家賃が入っていた。 「その家賃収入から、オーナーさんに家賃や電気代を支払い、1軒目のオーナーさんに借りた30万円も分割で返していたのです。それでも5万円、10万円と少しずつお金がたまっていく。それを見て漠然と『なるほど、これがビジネスなのか』と。小学生みたいだけど、この数を増やせば儲かるんじゃないかと思ったんですよね」 その後、渡邊は「絶望的条件の空き家」にも注目していくことにした。立地条件が悪かったり、オーナーが高齢だった不動産を、巻組がリスクをとって資金を調達したり、借り上げたりしたのだ。
当初うまくいかなかった地元の人との関係が好転したのは、「よい利害関係を築けるようになったから」と渡邊は言う。 「借り手のいない大家さんにとって私たちはお客さんですし、不動産屋さんにとっても私たちはお客さんです。とくにボランティアも去った昨今は、圧倒的に空き家物件が余っていて、大家さんも不動産屋さんも困っている。つまり、どちらのお客さんにもなり、責任をもって賃貸する役を代行していることを理解していただけたのかなと思います」
誰かの期待のためではなく
2013年秋、渡邊は石巻の男性と結婚した。両親はまったく想像していなかっただろうと笑う。 「東京にいるときは、親の期待に応え、友だちと足並みを揃えられる人間でなきゃ、と思い込んでいた。でも石巻に来たら、IT、広告など自分で事業を起こそうという若者ばかりで、手に職をもって輝く人がたくさんいた。私もその仲間になろう、誰かの期待に応えなければいけない世界に戻るのはやめようと思ったんですよね」 とはいえ、「石巻に骨を埋める覚悟で」などと言われることには違和感を覚えるという。「“骨を埋める”っていうのも、一種の固定観念じゃないかな」