石巻に大学院生で飛び込んで10年 空き家活用でビジネス展開してきた女性代表 #あれから私は
“よそ者”ならではの困難
渡邊はその後、月に2回くらいの頻度で石巻に通った。宿泊場所は現地で知り合った人の家だったが、そうして過ごすなかでボランティアの住居問題に気がついた。 石巻市に駆けつけたボランティアは震災後の1年間で約28万人に及ぶ。移住しようとする人も一部いたが、当時はすぐ暮らせるような賃貸物件はほとんどなかった。一方で、地元の話を聞いていくと、使われていない空き家はいくつもあった。 2012年夏、渡邊は空き家をリノベーションして再活用する事業に乗り出した。 「ひとりで勝手に始めました。そこは圧倒的課題だと思ったから」 だが、活動は簡単には進まなかった。現地では空き家をよその人たちに貸すことに抵抗があったからだ。
「ボランティアの人たちに対して、地元の人の感謝の気持ちはすごく大きいんです。ただ、ボランティアに何か提供するという心持ちの人は、当初は少なかった。被災地域の方々はあまりにも多くを失っているので、もちろんそうだろうと思うのですが……」 支援金の確保に各種財団を訪れても「被災者の支援だったらわかりますが、被災地への移住者の支援はちょっと……」と追い返された。 思案した渡邊は住宅地図を片手に、中心市街地47ヘクタールを徹底的に探すことにした。歩き回るなかで、石巻駅近くのホテルの裏に、表からは見えない空き家があることに気づく。トタン屋根の8畳二間の家。オーナーを探し出すと、「壊したところでどうにもならないし、使うならどうぞ」と言われた。2012年12月、ようやく手にした初の物件だった。 「助成金がまだないころで、オーナーさんに30万円借りたんです。『絶対に借りる人がいますから!』と言って。その30万円で床だけ直し、壁はペンキを塗って、トイレは汲み取り式のまま洋式便器を外付けした。それでも、カップルが借りてくれました」
翌2013年4月、プロジェクト「石巻2.0不動産」をスタートさせた。古い物件を見つけては、オーナーと相談しながらリノベーションし、入居者も募集する。そんなプロジェクトにすることで助成金200万円を得られた。 リノベーションの2軒目はお茶屋さんの2階をシェアハウスへと改築した。古くても最低限の補修をして貸し出し、住人に自由にカスタマイズしてもらうことで、家の価値は高められる。このシェアハウスはデザイン性も高く、メディアにたびたび取り上げられた。 こうして渡邊は本格的な事業にすることを決め、2014年、「巻組」を創業した。