石巻に大学院生で飛び込んで10年 空き家活用でビジネス展開してきた女性代表 #あれから私は
東日本大震災では多くの若者が被災地を訪れ、ボランティアなどに従事した。若者の中には、いつしか本格的に居を構えて事業をはじめた人もいる。渡邊享子(33)もそのひとり。宮城県石巻市で、空き家の再活用を事業とする「巻組」を運営中だ。埼玉県出身で“よそ者”だった彼女は、どのように被災地にとけ込み、事業を進めたのか。震災から10年、率直な思いを聞いた。(取材:森 健/構成:堀 香織/Yahoo!ニュース 特集編集部)
瓦礫の中のランドセルに衝撃
2011年5月、初めて石巻市を訪れたときに見た風景は、いまも渡邊享子にとって強い印象として残っている。 「たとえば海岸に近い南浜町は津波による被害がすごく大きくて、瓦礫の集積所みたいになっていました。そこを歩くと、バラバラの瓦礫の中にランドセルとか食器とか生活を彷彿とさせるものがあった。すごくショックでした」
一方、石巻の別の地域に目を向けると、津波に襲われたにもかかわらず家が残っている地区もあった。 「浸水した家で生活を続ける人たちがいた。そういう人の頑張りに、心を動かされました」 当時の渡邊は、都市計画などを学ぶ東京の大学院生。だが、震災後、石巻に通うようになり、ついには石巻で起業、居を移して定住するに至った。取り組んできたのは住宅のリノベーション(改修)だ。 石巻市は地震と津波で2万棟が全壊した。その後、4456戸の災害公営住宅が建てられたが、震災前と比べて現在までに2万人近い人口が減少し、約1万3000戸が空き家の状態だ。そんな状況のなか、渡邊が2014年に起業した「巻組」は借り手がつきにくかった物件をリノベーションし、おもに若い人向けに提供する事業を行っている。
リノベーションや設計施工に関わった物件は35軒、自社所有や借り上げで賃貸運営している物件が11軒。これまでにのべ約100人が住んできたという。 「私がやってきたのは、空き家を見つけてきては一軒一軒直し、石巻を訪れる人に住んでいただきながら、新しい事業や町の持続化に関わっていただくこと。目の前のことをなんとかやりきるので精いっぱいの10年でした」