前線から病院へ 負傷兵を密かに搬送するウクライナ軍の列車
【AFP=時事】一見すると、駅で待機している普通の列車のように思えるが、曇った窓ガラス越しに見えるのは、顔を負傷し、担架に横たわっているウクライナの兵士だ。 【関連写真18枚】ロシア軍の侵攻を受けるウクライナの前線地域で負傷し、軍用列車で病院に搬送される兵士、他
ウクライナ軍が運行するこの列車は、負傷兵を乗せ、危険な前線から遠く離れた病院へと搬送している。
搬送活動を統括する軍医のオレクサンドル氏(46)は、鉄道での搬送には明確な利点があると話した。一度に大勢の負傷兵を運ぶことができ、ウクライナ領空でロシア軍が優位に立っている今、ヘリコプターでの移送よりも安全だ。
だが、危険もある。
「敵は、医療用と軍事用を区別しない。そのため、特定の安全対策を講じている」とオレクサンドル医師は説明した。
AFPはこのほど、この列車への特別取材を許可された。安全上の理由から、出発地と到着地を明かすことはできない。
■あらゆる治療を列車内で
救急車が駅に到着した。数十人の負傷兵が担架で列車内に運び込まれ、花柄のシーツが敷かれたベッドの上に横たえられた。
車内の壁には、ウクライナ国旗や、子どもが描いた愛国的なメッセージ付きの絵が飾られている。
病院内とさほど変わらないように見えるが、列車がプラットホームを離れ、前線から遠ざかるにつれ、患者とスタッフはもちろん、何もかもが少し揺れ始めた。
カーキ色の服を着て、青い医療用手袋をはめた軍の看護師、ビクトリヤさん(25)は「あらゆる治療を移動中にやってしまう。一般的な静脈注射から挿管まで全部」と話した。
スタッフによると、けがの多くは砲撃や無人機攻撃によるもので、多数の負傷兵が手足を失うか、意識不明状態にある。
集中治療室として利用されている車両も1両あった。不測の事態が起きた場合、手術も行えるようになっているとオレクサンドル医師は話した。
■仲間や家族の身を案じて
走行中の列車内で治療を受けるという状況にもかかわらず、負傷兵らは気に留めず、心は他のことにとらわれているようだった。
衛生兵のオレナさんは、「彼らは手足を失うことなどは気に掛けていない。精神的に落ち込んでいるのは、仲間や家族の身を案じているからだ」と説明した。