「スイカ」だらけのカフェ、扉開けると 東日本大震災からつながる縁
扉を開けると「異世界」が広がる。カーテンからざぶとん、消毒液のボトルから食器まで。岩手県宮古市田老地区の「カフェすいか」の店内は、スイカを連想させる色やデザインでいっぱいだ。 【写真】スイカ色に彩られた外壁。屋根にも「一目で遠くからわかるように」とスイカが描かれている=2024年12月11日午後、岩手県宮古市田老野原、長谷文撮影 12月中旬、同市で家族が営むラーメン店を手伝う大久保わかなさん(28)が顔をのぞかせた。ミートボールと白菜のトマト味の煮込みの日替わりランチを注文。食器はもちろんスイカの絵柄付きだ。 日々忙しく、懸命にラーメンを作り続けている大久保さん。かみしめるように「おいしい」と吐息を漏らすと、スタッフの芝本愛さん(33)が笑顔を見せた。 田老地区は東日本大震災で181人が犠牲になった。津波が押し寄せた場所で、店の近くには2階まで骨組みが露出している津波遺構たろう観光ホテルがある。 芝本さんによると、店は2018年4月、米国出身のウィリアムズ・リネーさんが立ち上げた。ウィリアムズさんは震災時から、沿岸被災地域に物資を届けていて、田老地区の人たちとの縁が生まれた。物資支援が一段落した後も心のケアの必要性を感じたことから、「一人ひとりが安らげる場所を提供したい」と手工芸品を作るイベントなどを設けてきた。スイカをモチーフにした店作りに励んだのも、自身の「心が明るくなった」経験からだという。 現在は、ウィリアムズさんの知人でカナダ国籍のヴァンデンドール・セーラさんが店を運営する。家族の事情で母国に戻ることになったウィリアムズさんの「店の歩みを止めたくない」という意思を継ぐ。「お店が始まった物語の途中から参加したので、まだまだわからないことがたくさんあるけれど、みんなと過ごす時間が幸せ」。青森県で生まれ育ち、オランダ人の夫と、6歳、4歳、1歳の子どもたちと宮古市で暮らす。 店は22日から冬季休業に入った。おしゃべりを楽しみ、忙しい日常を彩る店の再開は来春となる。芝本さんはそれまで、静岡県熱海市のカフェで住み込みで働く。「ちゃんと帰ってきてね」と常連の大久保さんが声をかけた。何げない会話の大切さを身に染みて感じる本格的な冬が到来する。(長谷文)
朝日新聞社