「唯一無二の量産型」という矛盾を内包する若者 リスクを負わず自分を差別化したい若者の生存戦略
問題は爆弾を引き継いだ学生Nさんだ。彼/彼女はあくまで仮預かりしたに過ぎないという自己暗示のもと、多くの場合はそのまま先生に渡そうとするだろう。ただし、 「先生、Mさんが来て、これを預かりました」 「そうなんだ。でもこっちに持ってきても仕方ないじゃん。皆で食べたらいい」 と返されるのがオチだ。これはまずい。バタサン爆弾爆発の時は近い。場合によっては、やむなくゼミ室の机の上に放置したまま賞味期限を迎えることだって十分あり得る(ちなみに僕はバターサンドが大好きです。念のため)。
このエピソードのポイントは「今の若者はなるべく自分で決めたくない」という点にある。特に、他人が介在するような意思決定は避けたい。後で何と言われるかが怖いのだ(実際に言われることはないのだけど)。 ここからは「いい子症候群」の特徴をしっかりと説明したい。 僕は、2022年3月に出版した『先生、どうか皆の前でほめないで下さい:いい子症候群の若者たち』という本の中で、様々なエピソードやデータと共にいい子症候群について解説した。要約すると特徴は次の通りだ。
「いい子症候群の若者たち」の行動特性(その1) ・素直でまじめ ・一対一の受け答えはしっかりしている ・一見さわやかで若者らしさがある ・協調性がある ・人の話をよく聞く ・言われた仕事はきっちりこなす こういった行動特性から、世間ではよく、最近の若者のことを「素直でいい子」「まじめでいい子」と評する。そのような姿勢から「今年の新入社員は優秀だ」と春から夏にかけて噂されることも、もはや毎年の恒例行事のようだ。
ただし、彼らは同時に次のような行動特性も併せ持つ。 「いい子症候群の若者たち」の行動特性(その2) ・自分の意見は言わない、質問もしない ・絶対「先頭」には立たず、必ず誰かの後に続こうとする ・学校や職場では横並びが基本 ・授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す ・場を乱さないために演技する ・悪い報告はギリギリまでしない こういった極めて消極的な姿勢を伴うことから、「素直でまじめ」なのにもかかわらず、「何を考えているのかわからない」「自らの意志を感じない」といった不可解な印象を与える。