性犯罪歴確認「日本版DBS」は課題山積? 子どもの被害防ぐには、識者3人にインタビュー
英国では子どもに関わる仕事に就く人の安全保護の知識を高めるため、オンライン研修や、業種ごとに対策を話し合うワークショップも盛んに開かれている。日本でも政府が研修を整備し、子どもに関わるすべての人が性暴力防止に向けて適切な対応ができる体制づくりを進めてほしい。 × × すえとみ・かおり 1974年、山口県生まれ。専門は教育行政学。 ▽周回遅れの制度で効果なし 「性障害専門医療センター(SOMEC)」の福井裕輝代表理事 日本は2012年に英国で確立したDBSを参考に周回遅れで制度を創設したが、ほとんど、もしくは全く効果がないだろう。まず制度上、初犯を防げないことが大きな問題。再犯の防止に関しても、雇用の際に性犯罪歴の確認が義務付けられている事業者があまりにも少ない。 子どもと接する仕事は保育所や学校だけではなく、塾やスポーツクラブなど多様だ。仕事以外でも子どもと接する場はある。公園で犯行に及んだり、災害時にボランティアと称して被災地を訪れ、犯行の機会をうかがったりしたケースもある。
米国では1990年代、インターネット上で、性犯罪を犯した人の氏名や現住所など個人情報の閲覧を可能にし、地域で監視する「ミーガン法」が制定された。ただ、監視や規制を強めても、抑止力にならないとの指摘は根強い。理屈で分かっていても、やめられないのが性犯罪だからだ。 英国では80年代ごろから国費で治療する制度があるし、子どもと接触しない仕事に就けるよう職業訓練も行っている。日本はこうした前提となる仕組みを欠いている。 専門医が足りない上に、治療に保険は適用されない。刑務所から出所後の住居と就労先の確保も課題だ。代表理事を務める「性障害専門医療センター」では、派遣会社に再犯リスクの低さを提示し、仕事を紹介してもらっている。こうした対応が再犯防止に直結する。 拘禁刑終了から20年、罰金刑が10年という照会期間の長さにも疑問がある。英国では個々のリスク評価を行った上で年数を決める。10年、20年という長さは、更生して社会復帰を促すという意味合いではなく、事実上の「隔離」や「排除」だ。
施行後、さまざまな課題が見えてくるだろう。対策を迫られた時にきちんと検討してほしい。議論のたたき台になるのであれば、制度を作った意味はあるかもしれない。 × × ふくい・ひろき 1969年米国生まれ。性加害者に再犯防止プログラムを実施する「性障害専門医療センター(SOMEC)」代表理事。