<ガソリンエンジン>リーンバーン技術の失敗から生まれた「いい圧縮」の新技術
「良いガス、良い圧縮、良い火花」は調子の良いエンジンのための3原則で、最新技術の話もこれの例外ではないというお話の第二弾をお届けする。先週は「良いガス」の話だったが、今週は「良い圧縮」の話だ。 【画像】ガソリンエンジンの最新技術が面白くなる“魔法の言葉”
ダ・ビンチが発明した? 内燃機関の物語
ピストンとシリンダーを使い上下運動として動力を取り出す仕組みは古くからある。実際に作られたかどうかは疑わしいが、非圧縮内燃機関に関する最初の記述はなんとあのレオナルド・ダ・ビンチが1509年に書き遺しているという。 これが産業用動力として使われ始めるのは19世紀に入ってからのことだ。当時の主流であった外燃機関に比べて、内燃機関は熱効率が高い。産業革命の原動力にもなった外燃機関の代表は蒸気機関で、管の中を通る水を石炭などの燃焼によって外から加熱し、加熱されて高圧になった蒸気をピストンに導入することで動力を得ていた。内燃機関ならシリンダーの内部で燃焼を起こすので熱が逃げにくく、より有効利用できるのだ。 産業用に使われるようになるということは、お金を産むことと同じだから、進歩が一気に加速する。1823年にはフランス人サディ・カルノーが熱力学の理論を確立した。気体の圧力とは、要するに高温になった気体の分子が壁にガンガン当たる力だ。温度が上がる程分子が元気良くなって圧力が上がる。カルノーはその力と熱の関係を解き明かし、内燃機関の基礎理論を完成させた。その理論を「カルノーサイクル」と呼ぶ。いまでもエンジンの理論について書かれた書物はこのカルノーサイクルの説明から始まり、カルノーサイクルの熱効率は他のどの熱サイクルよりも高いとされている。
大事なことは「圧縮すると熱効率が高まる」
最も大きな技術的ブレークスルーは「混合気を予め圧縮して燃やすと熱効率が高まる」ことだ。 効率が良くなると小型化できる。自動車にとって動力源の小型化は重要だ。それまでの外燃機関は一般的に建物ごと作るような巨大サイズだった。蒸気機関車に搭載されたものは、あれでも技術の粋を凝らして超小型軽量化したものなのだ。蒸気機関としていかに小型軽量であってもあの大きさでは自動車には使いにくい。 カルノーの理論を用いて、圧縮内燃機関を作れば従来とは隔絶したレベルの小型動力機が製作でき、石油の発掘精製技術の確立とともに19世紀の終わりに自動車の時代が拓かれたわけだ。 カルノーの理論によって圧縮すれば効率が上がることは解った。しかし圧縮は諸刃の剣でもある。例えば無限に長ーい試験管の様なものをイメージして欲しい。この試験管に混合気を詰めて、入口から火を着けると燃料は燃焼して高圧ガスを発生させながら膨張する。 先端は行き止まりだから、膨張したガスは未燃焼の混合気を加速度的に圧縮しながら燃え広がる。先へ行けば行くほど未燃焼ガスの圧縮はどんどん強まり、最終的にはその燃え広がる速度は音速を超えて衝撃波を発生してしまう。こうなった状態を爆轟と呼ぶ。コントロール不能の状態だ。 エンジンで混合気を燃やす時、こんな暴走状態ではエンジンが壊れてしまう。爆轟を前提としてエンジンの設計は出来ないから、その手前で止めなくてはならない。しかし一方で圧縮圧力を高めれば高めるだけピストンを押し下げる圧力が強くなるのは理論として揺るがない。つまり「良い圧縮」の話はともすれば暴走して爆轟になってしまう燃焼を、なんとかコントロールしつついかに圧縮を高めて行くかの歴史なのである。