3列目は割り切り?トヨタ「シエンタ」 欲張りすぎないミニバン選びとは
最良の妥協点はどこなのか?
そこで全部を切り詰めて5ナンバー枠に収めたノア/ボクシー/エスクァイアがあるのだが、これはもうエンジニアが気の毒だ。小さくなったとはいえ全長4695ミリ、全幅1695ミリのボディはコンパクトとは言えないし、常時使うには三列目のシートはさすがに苦しい。燃費と動力性能のバランスも苦心の跡がくっきり残っている。要するにどこにも割り切りが許されない。全部の要素から少しずつ削って何とかしなくてはならないのだ。 エンジニアは相当頑張っているが、一方でエンジニアリングは魔法ではないので、できないことはやっぱりできない。色々と与えられた無理難題を、新国立競技場のザハ案くらいに大胆に突き破らないと理想に至らない。しかし、お客様という神様には口応えができないので仕方ない。世の中のありとあらゆるクルマの中で、ユーザーの無理難題を必死に消化しようとしているという意味で、5ナンバーミニバンほど息苦しい例を筆者は知らない。
だったら、もう三列目はエマージェンシーとして割り切った方が楽になる。そう考えて作られたのがトヨタの「シエンタ」である。そういう意味でシエンタの割り切りは気持ちがいい。3列目は普段は畳んで使う。田舎から祖父母が来た時だけ親子孫三代で出かけるならこれでいい。 つまり普段は普通のクルマとして1人乗りもしくは2人乗りで使い、買い物に出かけたら畳んだ三列目のシートの位置は、大容量の荷室になる。そしてどうしてもという時だけ多人数乗りに対応するわけだ。多人数乗車時には十全な機能を求めないことによって、普段使いでの利便性が良くなる。三世代揃って長距離旅行に行くというような場面では、無理せずにアルファードのレンタカーを使えばいいだろう。そんなケースはあっても年に数度のことだ。
旦那が普段1人乗りで通勤に使うにも、奥さんが買い物に行くにも、全長4235ミリ、全幅1695ミリならまずまず無駄な感じがしない。そう感じる人は多いのではないかと、先代モデルの発表会に行った時にも思った。実際先代のシエンタは隠れたヒットモデルで、2010年に一度生産が打ち切られてから、市場のニーズに押されて再生産をしたという経緯がある。 今回は、売れるという意味ではそれ以上の予感がある。先代はどこかにセカンドカーの匂いがあった。それは軽自動車をスケールアップしたような、親しみやすさ優先のスタイリングに一番濃厚に現れていたと思う。今度のデザインは明らかに「お金を出した満足感」が満たされることを狙っている。形に関する好悪は十人十色だと思うが、少なくともデザインの狙いは全然違うのだ。ターゲットとなる層は広がることが予想される。