54歳“新人”田中勝師「理想は相撲部屋の雰囲気」 3月開業“横綱”育てる
謹賀新年。新春の初日の出よりまぶしいカッチースマイル。2025年、日本の競馬界を明るく照らす。来月25日で54歳になる田中勝師は「オールドルーキー?そらあ、そうさ。新人ですよ。うまや(の場所)がやっと決まったから忙しくなるのはこれから。(調教師の70歳定年まで)俺は正味15年くらいしかできないから全力でいかなきゃいけないよね」ときらきらした瞳と白い歯を見せた。 思い描く厩舎像はズバリ相撲部屋。大相撲の元大関・栃東の玉ノ井親方と親交があり「一生懸命、切磋琢磨(せっさたくま)して、ワイワイやっていれば人が集まってくる。そういうのが理想だね。昔はそういう厩舎が結構あったからね。(馬にとっても)いい影響はあるんじゃないかな。でも、あれ(相撲のぶつかり稽古)は痛いよね(笑い)。さすがに厩舎でちゃんこ鍋まではいかないけど、そういう雰囲気づくりだよね」。 笑顔と持ち前の人懐っこさで人を引きつける“人間交差点”のような田中勝師ならではの厩舎だ。ジョッキーから調教師へ。「調教師となると厩舎スタッフもついてくるし、大事な馬主の馬を扱うわけだからいい成績も残さないと。いろいろ役割は増えるし、まあ、(そういう意味では)親方だろうね。不安でしかないけど、自信に変えられるようにやっていくしかないね」と腹をくくる。 憧れの存在として名前を挙げるのが野平祐二調教師(01年死去)。20世紀最強の競走馬シンボリルドルフを育成した名トレーナーだが、名馬のコピーをつくる気持ちは毛頭ない。「やっぱ自分の能力を出せる馬をつくりたいよね。馬の個性は一頭一頭違うし、1勝クラスの馬でも100%出さないと未勝利に終わっちゃうかもしれない。一頭一頭ちゃんと向き合って、とにかくその馬の個性と能力を出せるようにしたいな。それで横綱が出てくれば厩舎は盛り上がるだろうしね」。 騎手時代の騎乗回数は2万回以上。積み上げた勝利(JRA通算1812勝)の裏には数え切れないほどの敗戦と勝てなかった馬たちの存在を知るからこその思いだ。幕下だろうと、三役だろうと、人も馬もみんなで泣き笑いし、競馬道の頂を目指していく。 「競馬は楽しいよって話です。1頭の馬に対してああでもない、こうでもないって馬の話で尽きることはないしなあ。せっかく生まれ落ちてきた命だからね。大事に育てて強くしたい。うん」。“カッチー親方”田中勝春調教師の冒険が始まる。 ○…笑顔が絶えない田中勝師を語る上で欠かせないのが93年天皇賞・秋。師匠の藤原敏文調教師(96年死去)が管理したセキテイリュウオーに騎乗し、勝ち馬ヤマニンゼファーに鼻差敗れた。師匠に初G1タイトルを届けることができず、人目をはばからず涙したのはもう30年以上前。G1を勝って報告?と向けると、田中勝師は「まあ、そうだね。結構俺、意外とドライなんだよなあ。でもまあ、俺がいい競馬をしたら喜んでくれるんじゃないのと思っているよね」と思いを巡らせた。 ◇田中 勝春(たなか・かつはる)1971年(昭46)2月25日生まれ、北海道三石町出身の53歳。89年3月4日に美浦・藤原敏文厩舎所属で騎手デビュー。JRA通算2万657戦1812勝、うち重賞51勝、G12勝(92年安田記念ヤマニンゼファー、07年皐月賞ヴィクトリー)。1メートル55。実家は三石の生産牧場。血液型AB。趣味はゴルフ。