宝塚を退団して10年、初めて感じた男役のブランク。上杉謙信公を演じるため、重い刀で、まずは抜刀納刀の練習
100年を超える歴史を持ちながら常に進化し続ける「タカラヅカ」。そのなかで各組の生徒たちをまとめ、引っ張っていく存在が「組長」。史上最年少で月組の組長を務めた越乃リュウさんが、宝塚時代の思い出や学び、日常を綴ります。第80回は「男役のブランク」のお話です。 (写真提供◎越乃さん 以下すべて) 【写真】殺陣の先生たちと * * * * * * * ◆重い2本の刀 刀をお借りしました。 しかも2本。 刀を持って電車で帰る時、刀が何かに反応して捕まって職質を受けたらどうしようとか、今の時代AI危険探知などというものがあるのではないかと、無駄にビクビクしながら刀2本が入ったゴルフバッグを抱え足早に帰りました。 刀2本はなかなかの重さで、肩に痕が残るほどでした。 というわけで、今我が家には刀2本が鎮座しております。 宝塚時代、日本物でも洋物でも中国物でも殺陣は何度かやったことがありました。 腰を入れるのが難しく、手を覚えるのもダンスと違うからコツを掴むまでは大変でした。 相手と合わせるので右なのか左なのかわからなくなりがちで、ひたすらに覚えて練習するしかありません。 宝塚の刀は軽めに出来ていますが、今回使うのはなかなかの重さで、初めて持った時には驚きました。
◆日常のルーティン そんな重い刀で、まずは抜刀納刀の練習から始めます。 鞘(さや)から刀を抜く時、最初に行うのが鯉口を切るという動作です。 左手で鞘を握り、親指で鍔(つば)を柄の方向に押し出す動作のことです。 これをしないと即座に刀を抜くことが出来ないようになっています。 鯉口を切って刀を抜く準備を整えた後、右手で柄を握って抜刀します。 抜いている刀身が鋒/剣先まで来たら、鞘を水平にして左手で後ろへ引き、右手で一気に刀身を抜きます。 刀を抜くというよりも刀と鞘を引き離すイメージで。 納刀のコツは、左手で鞘の入り口を親指と人差し指で包み込むこと。 右手に持つ刀の刃は上に向けておき、刀の鋒と剣先を鯉口に乗せます。 その後、鞘が水平になるように左手首を少し持ち上げ、剣先が鯉口の中に入ったら右手の力を抜いて、滑らせるように刀身を鞘へ収めるのが基本的な方法です。 やってみるとそんなすぐにできるものではありません。 だからこそ練習です。 刀を抜き、構え、鞘に収める。 これを毎日何回かやるのが日常のルーティンになりました。 大階段を下を見ないで降りるのと同じように、抜いた刀を下を見ずに収められるようになるには繰り返しやるのみです。 謙信公祭本番まであとわずか。 さぁ今日も練習です。