両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.26
コロラドの虎
本間の管理する5棟のアパートは、その4棟が東南アジアの難民たちの城となり、ヒスパニック系の住民たちの砦は、最後の1棟となっていた。そのアパートには毎日のように十数人の不良達が出入りし、ドアを蹴破るはカーテンに火を付けるはと狼藉を働いていた。もちろんアパート代も払わない。 本間は、彼らの悪行の現場を押さえるべく、しばしば張り込みをしていたのだった。ある日、それも真っ昼間に事件は起こった。数人の不良が窓ガラスを割って、女性の部屋に乱入、 そしてレイプに及んだのだ。 以下、本間からは「武勇伝のようにとられる話を書くのはやめてほしい」と再三にわたって拒絶されたが、山本の強い願いと筆によって書かれたエピソードを記しておく。 本間は凄まじいその物音と女の叫び声に驚き、「お前ら何をやっているんだ!」と怒鳴りながらその部屋に駆け込んだ。だが敵の数が多すぎる。7、8人はいる。ストリート・ファイターの連中は、本間を取り囲み錆び付いた釘がささった角材を持ったり、ポケットナイフを抜いたりして今にも本間に襲いかかってくる体勢だ。 「表に出ろ!」と怒鳴って本間は通りに飛び出した。不良達に取り囲まれた本間は、リーダーらしき男に狙いを定め、両手を広げて胸の前に構え、じりじりと間合いを詰めて行った。 彼らは本間の隙のない構えと鋭い眼光、そしてその迫力に威圧されて攻撃を仕掛けることが出来ない。騒ぎを聞きつけた近所の住人達が集まり周りを取り囲み始めた。本間と不良ヒスパニックとの決闘を見物しようと、東南アジア難民達も集まり周囲は黒山の人だかりとなった。 やがてけたたましいサイレンを鳴らしてパトカーが現場に駆けつけた。ポリスがやってきては強姦魔達も逃げざるを得ない。彼らが逃げの体勢に入ったその隙を狙って、本間は猛烈な攻撃を掛け、リーダーとその子分数人を取り押さえた。 「日本青年正義感に燃え犯人逮捕!」との見出しで、翌日の新聞(デンバーポスト)に本間の記事が写真入りで出た。アパート住人の東南アジア難民家族達からは「さすが合気道の本間先生、大したもんですな!」と賞賛の嵐となった。そしてその事件以降、本間は何回も不良連中を捕まえることになるのだが、それはまさに命を張った闘いであった。 デンバーの貧民街ファイブポイントにおいて、命を張って奮闘する日本の武道家・本間を、東南アジアの難民達はいつしか畏敬の念を持って「コロラドの虎」と呼ぶようになった。 この事件によって、本間の合気道教室の生徒はうなぎのぼりに増加することになる。