両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.26
詐欺師と元米兵軍団
だが当時の本間にはまだグリーンカードが無かった。 一日も早くグリーンカードを取得しなければと、本間が思い悩んでいた頃、言葉巧みに近寄ってきた日系三世の紳士がいた。不動産会社の社長をしているというその男は、既に10人近い日本人のグリーンカード取得に協力したと言い、「グリーンカード取得にはスポンサー(保証人)が重要なんですよ。私があなたの永住権取得のためのスポンサーになってあげましょう。腕利きの弁護士と相談してグリーンカード申請の準備をしましょう。弁護士費用として4千ドルが必要です。用意できますか?」 人を騙すということを知らない本間は、彼の紳士的な態度とその言葉を信じ虎の子の4000ドルをその男に渡した。それは本間の全財産であった。 1カ月が経った。その男からの連絡は全くない。心配になった本間はグリーンカード取得進捗状況を問いただした。男はその都度「明日になれば……」、とか「来週にはきっと……」などと言ってのらりくらりと逃げ回る。 本間が日系人の知り合いにその話をすると、「本間さん、あの男は博打打ちのハスラーで、日系人コミュニティでは評判の詐欺師だぞ。あんたも運が悪かったな」 合気道の達人を自負する自分が、いとも簡単にあの男の口車に乗り、虎の子の4000ドルを渡してしまった。情けなくて悔しくて夜も眠れない日が続いた。 そんな窮状を知った道場門下生の米兵軍団が立ち上がった。 「本間先生、私たちに任せて下さい。必ず解決します!」 米兵軍団はそう言い残し、男を締め上げに行った。帰ってきた彼らの報告は次のようなものであった。 「あの男は移民局の所在地すら知らない大ペテン師です。残念ながら借用書がないので、男に渡した4000ドルは返ってきません。でもグリーンカードはなんとかします」 米兵軍団は、米国に帰国していた元米兵の仲間や三沢基地に残っている米兵たちに呼びかけて嘆願書を作成し、移民局に提出した。 「本間館長は日本武道・合気道のマスターであり、我々は米国空軍三沢基地勤務時代に、多大なる恩恵を受けた。多くの士官・米兵が彼の弟子となり訓練を受けた。特に若い米兵には家族のよう接し、我々は大変お世話になった。また米軍が不利益を蒙る行為の未然の防止にも多大な功績があった」 嘆願書の提出から3カ月後、本間は念願のグリーンカードを取得することができたのだ。三沢空軍基地からの弟子である門下生たちをこれほど頼もしく思ったことはなかった。
Project Logic+山本春樹