「プーチンはロシアを救ってなどいない」”圧倒的支持”は真実か? ロシア人の本音から見える「すべてが恐怖を基盤に成り立つ」生活
プーチン氏は常に、政治的な競争相手を排除してきました。だから、ロシア人の目にはほかに支持する政治家がいないように見えているのです。 一方で、ロシア人の中には、プーチン氏は正しいことをしているが、地方の権力者は交代させるべきだと考えている人もいます。いわゆる、〝王様は正しいが、貴族は悪い〟といった考え方です。 またさらに、一部の人々はプーチン氏を支持していないものの、支持しているように見せかけている人もいます。政権を批判することで、刑務所に入ることを恐れているのかもしれません。また、公務員の管理職は、部下に対してプーチン氏を支持するよう命じ、従わなければ罰金や解雇、職場での嫌がらせ、さらには昇進を制限するという脅しをかけて、プーチン支持の集会に参加するよう促すことがあります。だから、これらの公務員はプーチン氏を〝強制的〟に支持せざるを得ないのです」
疑問に目を閉ざすロシア人
アンドレイさん(40代、男性) 「僕はあまり政治には詳しくないし、ニュースを見る人間でもありません。しっかりと答えられるかどうかわからないので、それは理解して下さい。 だけれども、プーチン氏が1990年代の混乱からロシアを救ったという考え方は、間違っているのではないでしょうか。確かに、プーチン氏がロシアを強く、安定させた、などと考える人はいます。2000年代は、1990年代と比べて犯罪率も低下したのは事実です。 それでも、それは彼が理由なのでしょうか。路上でのあからさまな犯罪行為などは減ったかもしれません。しかし、組織的な犯罪などが減ったかどうか、定かではないです。 僕は1990年代からロシアを離れていて、ロシアに住む家族を繰り返し訪れていました。思い出すのは、当時はロシア社会が急激に変化していたということです。経済が、資本主義に変わって、人々は商売を始めました。その基盤を作ったのは、(旧ソ連の)ゴルバチョフ大統領でした。プーチン氏が変化をもたらしたわけではないのです。 なぜ、多くの人々がプーチン氏を支持しているのか。最大の理由はメディアです。テレビをつければ、ラジオを聞けば、〝特定の構図〟が提供されます。そして、この〝特定の構図〟というものは、事実に反しています。テレビから発せられるメッセージというのは、「あなたは、自分を(西側から)守らなくてはならない」というものです。だから、ウクライナに軍を送れというものなのです。 誰もが、そのような内容に疑問を持っています。だけど、テレビを見る人々もまた、自分の人生を肯定したい。自分たちの人生を心地よいものにしたいし、自分たちがやっていることを、〝良いもの〟だと感じたい。とてもシンプルなんです。 ロシアでの生活は、すべてが〝恐怖〟を基盤に成り立っています。普通の人が普通の人生を送りたいなら、恐ろしい目に遭いたくないでしょう。だからみんな、ほかの人たちと同じように流されて、生活をしているのです」 連載第2回『「ロシア人の4割は戦争に反対だ」それでも反対意見を封殺する「恐怖・貧困・プロパガンダ」によるプーチンの統治システム』(9月11日公開)に続く
黒川信雄